恒大集団ショックはリーマン・ショック並みなのか?
中国恒大集団が経営危機に陥った直接的な要因は当局の厳しい行政指導にあります。
当局は2020年9月1日付で大手不動産会社に対して、総負債、純負債、流動性に関する3つの指標で分類し融資を制限する“三条紅線”(3レッドライン)政策を始めました。2021年1月1日からは、中堅以下にも範囲を拡大、全面的に実施されることになりました。
この当初から3つの指標ともレッドラインにかかっていた中国恒大集団は当局の厳しい指導の下で、財務レバレッジの縮小を強いられました。その結果が「資金繰りの悪化」につながったのです(注:ただし、2021年6月末時点で総負債についてはグリーン[適正基準]に達しています)。
不動産は住むためのものであって、投機の対象ではありません。指導層からの強い指示で金融当局はバブル退治を行っているのです。しかし、指示のレベルでいえば、金融市場の安定は、さらにその上位にあります。
習近平(シー・ジンピン)国家主席が主導し、国家体制改革など国家の重要事項を議論する場である中央財経委員会会議(第10回)が8月17日に開催され、「共同富裕」を促進させる方針が決まりました。
注目していただきたいのは、この重要な会議において、重大な金融リスクの防止・解消、金融の安定的な発展が、共同富裕の促進と共に議題に上っている点です。金融市場の安定を維持した上で徹底したバブルつぶしが行われており、その過程で中国恒大集団が破綻に追い込まれつつあるのです。
中国恒大集団は金融業務も行っているとはいえ、本業は不動産開発です。
2020年の不動産販売額では碧桂園(02007)に次ぐ第2位でした。第3位の万科企業(000002)をわずかに上回り、前年から順位を一つ上げています。正真正銘の業界を代表する大手不動産会社です。
子会社で不動産管理業務を行う恒大物業集団(06666)の売却の話が進んでいるようですが、他にも恒騰網絡(00136)、中国恒大新能源汽車(00708)といった上場子会社を持っています。大手不動産として、仕入れた土地、仕掛物件を含め、売れる資産がないわけではありません。その点が、金融会社であるリーマン・ブラザーズとは大きく異なる点です。
そして、中国の経済・金融システムは国有の度合いが強く、政府の管理統制力が非常に強いといった点で、日米欧諸国と決定的に異なります。当局によって中国恒大集団のバランスシートは細かくチェックされており、それは他の不動産、金融機関についても同様です。
資本の論理を超え、経営自主権の一部ですが重要な部分が国家部門によって事実上管理されている以上、金融危機が起こる可能性は極めて低いでしょう。国有企業改革、金融市場改革が行われる過程で、共産党はこの部分に細心の注意を払ってきたという点が重要です。