リスク3:タイミングが悪い最低賃金の引き上げ

 さらに、先行きの雇用情勢を考える際の不安要素があります。

 7月14日に、厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会の小委員会は2021年度の最低賃金の引き上げ幅の目安を、全都道府県一律の28円に定めました。現行方式では過去最大の引き上げ幅です。

 2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、目安を提示することができず、2021年度も感染が収まっていない以上、大きな引き上げはないだろうと思われていた中での引き上げでした。

 一律の引き上げは、賃金水準の低い地域ほど負担感が増すことになります。東京都の場合、引き上げ率は2.7%ですが、最も最低賃金の低い県では3.5%になります。

 東京都は審議会の決定を受けて、早々と2021年10月からの最低賃金28円の引き上げを決めましたが、28円という目安をそのまま受け入れるべきか議論を続けている地域も見られます。

 企業の収益が低いほど、労働者のスキルが低いほど、最低賃金の影響を受けやすくなります。飲食業などのアルバイトだけではなく、中卒・高卒の新卒社員の給与にも影響が出かねない引き上げ額なだけに、「なにも、このタイミングで大幅に引き上げなくても」という経営者は多いでしょう。

 最低賃金は他の労働制度も絡む複雑な問題です。日本の場合、新卒一括採用が主流なので、最初につまずくと後からの挽回が難しいですが、一方で、今後の成長に期待して未熟でも採用するという傾向があります。学生のアルバイトも社会に出るまでの準備の一環という風潮があり、職業訓練を会社が担う制度を採っていると言えるでしょう。

 雇用調整助成金などに見られるように、できるだけ失業させないようにすることで労働者を守るという制度になっています。失業しても公的な職業訓練の機会が豊富で労働移動がスムーズという制度ではないため、一度、労働市場から漏れると厳しい状況に陥りやすくなります。

 就職氷河期やリーマン・ショック期に比べると、コロナ禍でも失業率は低く、新卒採用の悪化も目立ったほどではないですが、最低賃金の引き上げというコスト増加は気掛かりな要因です。