やっぱり現金・預金が好きな日本人

 上場株式の取引をみると相場の流れに逆らうリスクテイク傾向がある日本の家計ですが、資産の構成を見ると、むしろ保守的で、現金・預金を好むことが分かります。2007年12月末以降、家計の金融資産に占める現金・預金の割合は一貫して50%を超え、2020年中は54%台で推移しました。

 資金循環統計はさまざまな調査・統計を基に推計しているのですが、預金については、日本銀行が金融機関に報告を求めているので、精度の高い数字になっています。

 長らく続く低金利の影響で、定期預金は減少傾向にあるのですが、それがなかなか投資に向かわず、流動性預金にシフトしています。

 また、2020年については、コロナ禍で旅行やレジャー、外食が減ったことや、一律定額給付金や持続化給付金の支給で預金は44兆円増加し、955兆円になりました(資金循環統計では個人事業主は家計に含まれます)。

 業績不振でボーナスが減少したり、残業が減ったりといった所得の減少を消費の減少と給付金が補って、さらにあり余り、結果、不況下のカネ余りという現象が生じています。

 後々の経済見通しにおいて、こうした預金がどれだけ消費に向かうのかが注目点のひとつですし、足元では、一律定額給付金の再支給の議論にも影響する数字です。

 今回の資金循環統計に関する報道では、家計保有の現金が100兆円を突破したことも話題になりました。1年間で5兆円増加して、2020年12月末の残高は101兆円です。一部のメディアが「タンス預金」の増加と報じたので、「どうやって調査したんだ?」と疑問に持たれた方もいるかと思います。

 金融機関に調査をすれば把握できる預金と違い、現金の推計は少し複雑です。市中に出回っている現金(銀行券と硬貨の合計)は日本銀行が公表しているのですが、実際にその数字の分だけ、現金がある訳ではありません。

 損傷がひどくて引き換えできなかったり、火災や津波などで消失してしまった現金もあります。総額の段階で本当に正しい数字というのは、誰にも分かりません。

 また、銀行券を誰が保有しているのかも難しい問題です。直接、調査できる金融部門はまだしも、一般の企業(民間非金融法人)などが保有している現金については、財務省「法人企業統計(年報)」や総務省「個人企業経済調査(構造編)」といった統計を基に推計しています。

 こうして各部門が保有する現金を推計して、最後に現金の総額からこれらを引くことで、残差として家計が保有する現金が求まります。