配当にはどんな意味がある?

 次に企業の成長率がもっと下がった場合、自社株買い戻しではなく、配当を払うという方法で株主に利益を還元することが行われます。

 配当の場合も「一度配当を支払い始めたら、それをやめてはならない」という法律はありません。だから、自社株買い戻し同様、ムリになればいつでもストップして良いのです。

 しかし……。

 一度配当を出し始めた企業が減配、ないしはそもそも配当自体をやめてしまうと(そのことを「無配転落」と言います)、とてもイメージが悪いのです。

 つまり配当の場合、(一度始めたら、継続してやるものだ)という暗黙の了解があるのです。すると企業は、しっかりと今後未来永ごうにわたって、配当を出し続けられるようなメドがちゃんと立ってから、配当を出す決断をします。こういった事情で配当を出し始めるのは、自社株買い戻しよりもずっと後になるのです。例えば、マイクロソフトが配当を出し始めたのは2003年、アップルは2012年です。

 意地悪な見方をすれば、配当を出し始める企業は、もはや急成長企業ではなく、安定成長株だというふうにも言えます。人間の一生に例えれば、壮年期というわけです。

 いま、フェイスブックとアップルを比べた場合、皆さんは両方とも有望な企業というふうにしか捉えていないかもしれません。でも、フェイスブックは無配で、アップルは配当を出しています。企業のライフサイクルから言えば、フェイスブックは高校生、そしてアップルは中年というくらいの差があるのです。

配当をきちんと払い続けている企業は、優等生企業

 いま自社株買い戻しを行い、配当をきちんと払い続けている企業は、優等生企業だと言っても良いでしょう。皆さんがそのような優等生企業を、投資対象に選ぶことには大賛成です。

 ただ、優等生には期待できないこともあります。

 それは、優等生企業の場合、もう何年も「勝ち組」であり続けているため、IPO(株式の新規公開)したばかりの企業の中でも、ごく一握りの企業が見せるような華々しい急成長は望み薄だということです。つまり、急成長ではなく、安定成長なのです。イメージで言えば、売上高は年率7%、EPSは年率10%で成長するという感じです。

 こういう銘柄はバタバタ売り買いしても、あまり儲かりません。つまり、時間を味方につけ、じっくりと長期で株価が上がるのを待つ方がベターなのです。

 そもそも、EPS成長などの面で投資家にあまり報いることができないから、利益を配当に回すわけですから、投資家としては「もらえるものは、しっかりもらっておこう」という主義を貫かなければ意味がないのです。

 米国の企業の場合、四半期ごとに配当が支払われます。だから、売ったり買ったり、せっかちなトレードを繰り返している間に、配当をもらい忘れたりすることがしょっちゅう起こります。そのため、安定成長している優良株をむやみにトレードするのは禁物です。

 反対に、IPOして間もない若い企業は、そもそも急成長する見込みがあるから投資するわけであって、それが問題に直面して成長しなくなったら、もう用はないのです。待ち続けても配当も払ってもらえないから、投資効率はすこぶる悪いです。つまりIPOしたての若い企業ほど、見る目はシビアにしてください。

 逆に何十年も成長を出し続け、利益を稼ぎ出し、配当を払い続けてきた企業は、よっぽどのことがない限り、経営がグチャグチャになることは稀(まれ)です。優良株に接する際は、じっくりと長期で株価が上がるのを待つ、辛抱のキモチが大切なのです。