金価格が急落した背景を知るには、変動要因の構造を再確認することが必要

 他の貴金属を巻き込みながら、大きく下落した金(ゴールド)ですが、その下落の背景には、何が挙げられるのでしょうか。

 以下は、本格的な価格上昇が始まった2019年7月以降の金価格の推移です。

図:NY金先物(中心限月)の価格推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:CMEのデータをもとに筆者作成

 日本時間8月17日(月)午前時点では、8月11日(金)を含んだ急落によって、金相場が長期的な下落トレンド入りしたとはまだ考えられない、と筆者はみています。

 以前のレポートでも述べたとおり、金相場は一つの変動要因で動いているのではなく、資金の逃避先(有事のムード)、代替通貨、代替資産、中国・インドの宝飾需要、中央銀行の金保有など、少なくとも5つの材料によって変動していると、考えられます。これらが、相殺し合って価格が決まっている、というイメージです。

 以下は、筆者が考える足元の金相場の5つの変動要因の状況です。

図:足元の金相場の5つの変動要因の状況

出所:筆者作成

 上図「NY金先物(中心限月)の価格推移」から分かるとおり、今年7月の金価格の上昇は、5月から6月までの上昇に比べて、勢いがありました。

 米国で実質金利がマイナスとなり、代替通貨としての金の需要が増加する可能性が高まったこと、新型コロナ第2波が起きておらず経済回復が期待される中国の6月の金の輸入量(香港経由)が、5月に比べて回復したことなどが、7月の金価格を、さらに上向かせる要因になったと考えられます。

 5つの変動要因は絶えず変化し、相殺し合い、金市場に影響していると考えられますが、8月11日(火)の金価格の下落を、この考え方で説明するとするならば、“資金の逃避先(有事のムード)”における需要が減退する懸念が生じたために急落した、と言えると思います。

 簡単に言えば、世界に存在する悲観論が後退して、一時的に有事のムードが後退し、資金の逃避先としての金の需要が減退する懸念が強まり、金相場に下落圧力がかかったのではないか、ということです(他の4つの材料はおおむね変化なし、とみられます)。

 また、比較的、下落幅が大きかったのは、金価格がもともと史上最高値圏にあり、高値警戒感が強まっていた中で、下落が発生したため、売りが売りを呼んだことが一因になったと、考えられます。

 では、具体的に、どのような悲観論が後退したと考えられるのでしょうか。