経験則では、購買力平価より20%以上円安が進むと、米国から円安批判が出る

 2006年以降の購買力平価と、ドル円の動きを、詳しく見てみましょう。

<ドル円為替の購買力平価(企業物価ベース)と実際のレート推移:2007年1月~2020年7月>

出所:購買力平価(企業物価)は公益財団法人国際通貨研究所

 2008~2012年は、購買力平価(企業物価)対比で、大幅な円高が進みましたので、日本の輸出産業の競争力が低下しました。2013~2015年は、購買力平価対比で、大幅な円安が進んだため、日本の輸出産業の競争力が上昇しました。

 経験則では、購買力平価よりも20%以上、円安が進むと、米国から「円安批判」が出ます。それが、2015~2016年に起こりました。2015年、ドル/円が、購買力平価よりも20%以上、円安になると、米国から円安批判が噴き出しました。大統領選挙を戦っていたトランプ米大統領が最初に口火を切り、対抗候補のヒラリー・クリントン氏も「円安批判」に同調しました。さらに、当時、財務長官だったルー氏も「日本の為替操作は許されない」と、円安批判に加わりました。そうした、米国からの政治圧力もあり、その後、急速に円高が進みました。

 過去の事例で言うと、1984年にもドル/円が、購買力平価より20%以上、円安になりました。この後、1985年9月に米国主導で「プラザ合意」が結ばれ、国際協調介入によって、急激な円高が進められました。

 このように、購買力平価・貿易収支は、通常は、為替レートに影響を及ぼしませんが、時折、貿易摩擦などを通じて、為替に影響します。その結果、長期的には、ドル/円は、おおむね購買力平価プラスマイナス20%に収まっています。

<参考>購買力平価とは

 世界各国のマクドナルドのハンバーガーの価格から導かれるビッグマック指数が有名です。仮に、日本で100円のハンバーガー(ビッグマック)がアメリカでは1ドルで売っているとします(数字は説明のために設定したもので、実施の価格とは異なります)。その場合、ハンバーガー1個が買える100円と1ドルを同じ価値とみなします。つまり、1ドル=100円をビッグマック価格から導かれる購買力平価(ビッグマック指数)と考えます。

 現在のドル円は、1ドル約106円です。1ドル=100円の購買力平価より円安なので、輸出に有利です。日本で1個100円のハンバーガーを大量に買いつけて、米国に輸出して1ドル(106円)で売れば、利ざやが得られるからです(*現実には、ハンバーガーは輸出できません)。

 このレポートで使用している購買力平価は、企業物価(企業が利用するさまざまな財のバスケット価格)から、公益財団法人日本通貨研究所が算出したものです。この購買力平価よりも、実際の為替レートが円高だと、日本企業は輸出競争力を失います。購買力平価よりも、実際のレートが円安だと、日本企業は輸出競争力が高まります。