掟その7:資産全体を最適化する

 年金運用のパフォーマンスは、明らかに、個々に分割して運用している資産の「合計」のパフォーマンスだ。年金基金及び個々の年金マンは、合計が最適になるように運用全体を設計し、コントロールしなければならない。

 たとえば、国内株式の運用で、運用会社A、B、C、D、E、F、Gを使い、A社がトヨタを買う一方で、G社がトヨタを売っていた、というような相殺売買も避けたいし、各社の運用が個々には手数料の高いアクティブ運用なのに、A+B+C+D+E+Gが、ほぼインデックス・ファンドになっていた、というような状況は、明らかに最適ではない。

 再び、日本の企業年金を振り返ると、実は、こうしたコントロール不全が、個別資産の中のレベルではなく、アセットアロケーションのレベルでも起こることがあった。中小の厚生年金基金では、しばしば複数の運用会社にバランス型の運用を委託して、自分自身のアセットアロケーションを完全に把握することも、コントロールもできない状態に陥ったケースがあった。

 過去にあって、日本の特に企業年金の運用は、お世辞にもうまくいったとは言い難いが、年金基金の行動原則をまとめてみると、彼らの来し方にはリアルな反面教師としての有益な教訓が満ちていたことが分かる。その中のいくつかは、個人投資家の参考にもなるものだ。

【補足】
 筆者は、かつて年金運用のファンドマネージャー(日本株アクティブ)だったし、現在は年金基金側で運用方針の策定などに関わることが多い。年金の運用は、個人にとって2つの意味で大変参考になる。

 まず、プロセスがある程度標準化されていて歴史もあるので、運用方法を考える上で参考になる。例えば、アセットアロケーション重視の必要性は個人の運用にも当てはまる。

 また、年金運用の失敗例が個人投資家にとっての教訓になる。「目標利回りから決める運用」の失敗、手数料の高いアクティブファンドがダメなことなどは、年金運用の過去の歴史を知っていたら、改めて考えるまでもなく分かることだ。

 この記事は、筆者が過去に書いた機関投資家運用の7つの失敗に関する原稿とセットで読んでいただくとより分かりやすいと思う(自分の間違いを指摘されるよりも、他人の失敗例のほうが頭に入りやすい!)。参考までに、7つの失敗のリストを以下に掲げておく。(2020年3月3日・山崎元)

<日本の機関投資家7つの大失敗>
1. 目標利回りにこだわって運用計画を作り、リスクを軽視した
2. 直利指向で運用して損をした
3. 時価評価を嫌がって正しい行動ができなかった
4. 外債の期待リターンを過大に評価した
5. バランス・ファンドで運用して効率を損なった
6. アクティブ運用で余計な手数料を払った
7. 仕組み商品に投資して損をした
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