景気は良いの?悪いの?指標でなぜ違う?

 景気という言葉は人によって受け取り方が様々ですし、公的機関でも「景気」という用語をどのように用いるかは違っています。最近の公表資料を見てみましょう。

・日本銀行「経済・物価情勢の展望」2019年10月(11月1日公表)
→わが国の景気は、輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響が引き続きみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している。

・内閣府「月例経済報告」令和元年11月(11月22日公表)
→景気は、輸出を中心に弱さが長引いているものの、緩やかに回復している。

・内閣府「景気動向指数」令和元(2019)年9月分速報(11月8日公表)
→景気動向指数(CI一致指数)は、悪化を示している。

 このように同じ日本経済を見ているのに、「基調としては緩やかに拡大」、「緩やかに回復している」、「悪化」と、まるで評価が違っています。

 こうした違いが生じる理由として、「景気動向指数は統計を基に機械的に判断しているけど、日本銀行「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)や内閣府「月例経済報告」は主観的な作文で忖度して書いているからだ」、と批判されることがあります。

 そう言われても仕方がないくらい景気の評価が違っていますが、この違いは、GDP(国内総生産)の成長率、特に潜在成長率をどう見ているかに大きく影響されています。潜在成長率とは、短期的な経済の良し悪しに左右されない、言わば、実力ベースの成長率です。実力を上回れば、景気は良いという判断になります。

 日本銀行は内閣府に比べると潜在成長率を低めに見る傾向があります。足元の潜在成長率は、日本銀行は約0.7%、内閣府は約1%と推計しているので、成長率の見込みがこの間にあるときは両者で評価が異なることがあり得ます。

 例えば、経済成長率が0.8%のとき、日本銀行が「この成長率は潜在成長率という実力以上だから拡大」と考えても、内閣府は「潜在成長率を超えていないから拡大とは言えないので回復」ということが起きます。

 潜在成長率を考慮した景気判断は、生活実感や日常感覚とは異なった評価になることがあり得て、極端なことを言えば、労働人口の減少などによって潜在成長率がマイナスになった場合、ゼロ成長や▲0.1%の経済成長でも景気が良いという評価になります。

 11月の内閣府「月例経済報告」を見ると、総括としての景気の判断は据え置かれましたが、「企業収益は、高い水準にあるものの、製造業を中心に弱含んでいる。」と下方修正されました。企業収益は良いとは言えない状況です。展望レポートも月例経済報告も、総括だけではなく各コンポーネント(生産や消費などの項目)を丁寧に見る必要があります。