2:支払い手数料の増加

 2番目の起こりうる弊害は、余計に手数料が掛かることがあることだ。

 売買に手数料が掛かる場合、最終的に同じ金額を投資するとしても、売買回数を増やして、1回当たりの金額を小口化すると、支払う手数料が増えることになる。ネット証券などで、ノーロード(購入時の手数料がゼロ)の投資信託に積立投資する場合はこの限りではないが、買い付け時に手数料が発生する投資対象の場合には注意が必要だ。

 なお、この弊害の1番、2番を考えると、300万円投資する場合に、100万円ずつ3回に分けて投資するといった投資の「時間分散」が合理的でないことがお分かり頂けるだろう。

3:一つの対象に対する集中投資によるリスク増加

 3番目の弊害は、特定資産に対する集中投資によるリスク増加だ。せっかく金額を分けて何度も投資するなら、投資するごとに買い付ける対象を変えた方が、分散投資の効果が働いてリスクが低下する。

 ここで、「ドルコスト平均法は有利だ」「ドルコスト平均法だからリスクが抑えられていると」考えて、同じ投資対象に集中投資するとすれば、これはドルコスト平均法の弊害といっていい。

 筆者が間近に見たこの弊害の印象的なケースは、自主廃業の発表に至った際の山一證券の社員の社員持株会での自社株投資だった。中には、職場と収入と資産の大半を同時に失った者もいた。彼らは、証券会社の社員なのだから、リスクの集中は「自己責任だ」と言うしかない(同時に、証券会社の社員が運用の専門家でないことも分かる)。ただし、他の会社でも、社員持株会の説明パンフレットには、ほぼ必ずドルコスト平均法の効用が説かれていることを思うと、これは無視できない弊害ではないだろうか。

 さて、少なくとも、有利な投資方法ではなく、時に弊害もある、ドルコスト平均法が優れた投資方法であるかのように説かれ続けるのはなぜだろうか。

 冒頭で申し上げた金融機関のビジネスにとっての都合もあるだろうし、もう一つには、先に挙げたようにドルコスト平均法がこれと相性がいいということが挙げられるだろう。

 また、行動経済学的な説明としては、行動をルール化しておくと失敗した時に気が楽だからだという理由がある。自分で判断して高値を買ってしまうと後悔するかもしれないが、ドルコスト平均法だと、少なくとも最高値で全額を買うことがないし、投資の失敗があっても、自分ではなく、採用したルールが悪かった、あるいは、いいと言われる方法を採用したのだから仕方がない、という諦めが付くという「自分への言い訳効果」だ。これは、行動経済学でよく使われる用語でいうと「後悔回避」の表れだ。

 こうした理由があるとはいえ、そろそろドルコスト平均法について、正しく語るべきではないだろうか。

 特に、マネー運用の解説書を書く方には気をつけてほしい。深く考えることなく、判で押したように、「ドルコスト平均法は有利だ」「ドルコスト平均法でリスクが下がる」などと書くと、この本の著者は頭が悪いか、金融機関の回し者ではないか、と思われてしまうリスクがあると申し上げておこう。

【補足】
 記事を読み返すと、相変わらずドルコスト平均法に対して手厳しい。せっかく投資を始めようとする初心者には辛辣(しんらつ)すぎる記事かもしれないのだが、ドルコスト平均法が投資として有効にリスク・リターンの関係を改善している(たとえば分散投資のように)と考えているとすると、それは「勘違い」なので、正しく理解しておきたい。

 ドルコスト平均法が、「ゆっくりリスクを取っているだけだ」ということと、「買った後のリスクは縮まないし、積み立て後半には、リスクが過大になっていないか注意が必要だ」という2点を押さえておいてほしい。「一口あたりの平均買いコスト…」については考える意味がない。唯一注目すべきなのは、「現在のリスク資産額」だ。これが最適であれば、それでいい。(2019.11.26 山崎元)