9月のサウジの原油生産量は前月比10%程度、在庫は20%程度の減少か

 事件後のサウジの原油生産量の早期復活について考えてみます。今月に入り、複数の機関から、事件が起きた9月の原油生産量のデータが公表されています。これらのデータをもとに、先月起きたサウジ・ドローン事件の、同国の原油生産量・原油在庫への影響を推定しました。

 海外通信社2社、EIA(米エネルギー省)、OPEC(石油輸出国機構)、IEA(国際エネルギー機関)の5つの機関のデータを比較します。原油在庫はJODI(共同機構データイニシアティブ)のデータを参照します。

出所:海外通信社、EIA、OPEC、IEAのデータより筆者作成

 

 上記の資料のように、サウジの9月の原油生産量の5つの機関の平均は、前月比11.4%減となる日量869万5,000バレルでした。事件の影響で、一時は生産量が半減と言われましたが、実際のところ、5機関の平均で見ても、9月は8月に比べて10%前後の減少にとどまったとみられます。

 生産量の回復が早かった、そもそも半減していなかった、などの理由が考えられます。

 

単位:百万バレル/日量
出所:EIAのデータより筆者作成

 

 ただ、原油在庫については、影響は小さくなかったと言えます。JODIのサウジの原油在庫データ(8月時点で1億7,275万3,000バレル)をもとに推定すると、9月は5機関平均で19%の減少(8月比)となったとみられます。

 仮に、事件が起きなかった場合の9月の生産量を8月と同じ量とし、事件が起きた9月の生産量との差分(減少分)を計算すると、5機関平均では、980.9万バレル/日量 × 30日間(原油生産量の総量は2億9,430万バレル) - 869.5万バレル/日量×30日間(原油生産量の総量は2億6,080万バレル)→ 3,342万バレルという値が出ます。

 サウジが、この生産量(総量)の減少分を原油在庫の取り崩しで対応したとすると、8月時点で1億7,275万3,000バレルあった原油在庫が、1億3,933万3,000バレルまで減少(8月比19.3%減少)した可能性があります。
 

単位:千バレル
出所:JODIのデータより筆者作成

 

 JODIのデータでは、2016年ごろからサウジの原油在庫は減少傾向にあります。ドローン事件が減少に拍車をかけた格好ですが、もともと減少傾向であったのは、2017年1月から始まったOPECプラス(石油輸出国機構=OPECと、非加盟国で構成される組織)の協調減産が始まったことと無縁ではないと考えられます。

 減産は生産量に上限を設けて供給量を絞る行為です。このため、原油を売って得られたはずの外貨を放棄する行為とも言えます(減産実施により原油価格が上昇すれば、生産量を絞ったことによるデメリットを、原油価格の上昇[単価の上昇]というメリットによって相殺できる期待が生じます)。

 サウジはOPECプラスの中のOPEC側のリーダー格であるため、率先して減産を行う立場にあります。生産量の規模が大きいこともあり、必然的に他の減産参加国よりは減産の負担が大きくなります。この減産の負担を、原油在庫の取り崩しを行って“生産は削減するが、収入は削減しない”ことを実践して乗り越えてきた、もしくは、サウジ国内で在庫として積み上がっている原油を精製し、石油製品にした上で輸出をして外貨を獲得してきたと考えられます。

 協調減産は少なくとも来年3月まで続きます。12月5日のOPEC総会、翌6日のOPEC・非OPEC閣僚会議で減産を延長する可能性もあり、減産期間が長くなればなるほど、サウジの原油在庫は減少する可能性があります。

 JODIのデータや筆者の推測が正しければ、今回のドローン事件は、サウジの原油在庫に大きなダメージを与えたことになりますが、減産期間中、あと数回、同じような事件が起きれば、計算上、一時的にせよ、サウジの原油在庫が枯渇する可能性はゼロとは言えないと筆者は思います。

 サウジ・ドローン事件は、減産実施時に在庫削減で外貨獲得を実施してきた可能性、あと数回の攻撃で在庫が枯渇しかねない状況であることを、浮き彫りにしたと言えます。