中国の原油消費拡大が阻む、減産順守と調達先代替の模索

 

 前回の「ドローン空爆で原油炎上!サウジの生産量半減でどうなる原油価格?」で述べたとおり、今回のサウジ・ドローン事件の影響が長期化したとしても、1年数カ月程度は、“数字上・世界全体として”、世界が現在有する石油在庫で乗り切ることができるといみられます。

 とはいえ、足元、先述の通り、数カ月以内にサウジの原油在庫が枯渇する可能性が生じている以上、サウジから原油を購入していた消費国は、具体的に調達先を変更する(代替先を模索する)必要に迫られる可能性があります。

 UAEやクウェートなど他の中東諸国も有力ですが、イラン情勢の悪化によるホルムズ海峡封鎖(過去のレポート「ホルムズ海峡緊急レポート続報!OPECは減産を継続するのか?」を参照)のリスクを回避するのであれば、それ以外の地域の米国やロシア、中南米やアフリカ、東南アジアの産油国が候補になるとみられます。

 具体的な代替先を模索する上で考慮しなくてはならないのが、中国の存在です。中国の原油消費量が増大し続けていることが、サウジの代替先を模索する上で障壁になる可能性があります。減産実施国の中でも中国向け原油輸出量が増加したことにより、減産を順守することができない国も出てきています。

 以下の通り、OPECプラス24カ国の原油輸出量に占める中国向けの割合は、双方ともに長期上昇傾向にあり、なおかつ、2017年1月の協調減産開始後もその傾向が続いています。

 増加し続ける中国の原油消費に対し、その消費をまかなうべく、減産実施の有無にかかわらず、OPECプラスの産油国の中に中国向け原油輸出を継続して行う国があることが分かります。

図: OPECプラス(OPEC14カ国・非OPEC10カ国)の原油輸出量に占める中国向けの割合

出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータをもとに筆者推定

以下は、特に2017年ごろから中国向けに原油輸出量を増加させているOPECプラスの国々です。(非)は減産に参加する非OPECの国々です。

図:中国向け原油輸出の増加が目立っているOPECプラスの国々の対中原油輸出量

 

単位:千バレル/日量
出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータをもとに筆者推定

 サウジやガボン共和国(中部アフリカに位置する共和制国家)などは、もともと中国向け原油輸出が比較的多い国ですが、近年は“高止まり”しており“増加”はしていません。しかし、上図の7カ国は協調減産開始後に増加が鮮明になっています。

 IEAが報じている減産順守率(100%を超えれば減産順守。例えば110%であれば、合意した削減量の1.1倍の削減を行っていることになる)によれば、これらの7カ国は決して減産に前向きに取り組んでいるとは言えません(イランとリビアは減産免除国のため減産順守率は計算されません)。

 2019年1月から始まった新しい減産のルールに基づく減産順守率(1月から7月までの平均)は、ロシアが77%、オマーンが99%と、ともに削減量不足で減産非順守です。イラクが▲39%と基準を超えた生産を行い(減産ではなく増産)で減産非順守でした。

 クウェートが127%、UAEが117%ですが、クウェートは米国向け、UAEは日本、韓国、台湾への輸出を減少させた上で、中国向け輸出を増加させているため、中国向け輸出が減少していれば、この2カ国の減産順守率はもっと高くなるとみられます。

 中国の旺盛な消費は、すでに主要産油国の減産順守を阻害する一因になっているとみられます。このような状況において、サウジ・ドローン事件が、消費国における具体的な代替先模索に発展したとき、日本や韓国、インドなどのサウジから原油を調達していた中国以外の国々が割って入れるのか(買い負けないか)が注目ポイントとなるとみられます。

 サウジ・ドローン事件の2日前にあたる9月12日、サウジの新しいエネルギー相(アブドルアジズ王子)が16回目となったJMMC(共同閣僚監視委員会)の場で、OPECプラスの個別国に対して組織の結束と減産順守を改めて呼びかけました。

 減産順守徹底を訴えるサウジの新エネ相の下、OPECプラスは、“時期尚早”として、すぐには増産をしない方針を、サウジ・ドローン事件発生の数日後に打ち出すなど、減産徹底順守への強固な姿勢を示しました。

 OPECプラスの一員として減産順守を優先するのか、中国への原油供給(自国の外貨獲得)を優先するのかの選択を迫られ続けているとみられるロシア、オマーン、イラク(その度合いは3カ国ほど高くないものの、クウェートやUAEを含め)においては、このような状況が、来年2020年3月の協調減産終了(現時点での予定)まで続きます。

 OPECプラス24カ国(厳密には減産免除国3カ国を除く21カ国)それぞれが、減産順守を徹底するとなると、減産順守と中国の消費の狭間にいる産油国にとっては販売先の選定が難しくなり、サウジの代替先を模索する消費国にとっては不安が拡大する可能性があります。

 中国の景気減速が本格化して中国の原油調達が鈍化すれば、減産参加実施国の減産順守率が上昇し、代替先を模索する国々の原油調達がスムーズになるわけですが、環境配慮よりも経済発展を優先し、莫大な人口を抱える同国においては、長期的には、同国の原油の消費拡大傾向は継続する可能性があります。