素人の難点9:自分が投資した期間ばかり見ている

素人の難点10:自分の買値を基準に投資判断する

 ところで、値動きの良し悪し、過去の株価の推移を見るとしても、どの期間の株価を、何を基準に見るかによって、評価は大いに異なる。

 そして、投資向きでない素人投資家の場合、自分の保有銘柄に関して、主に自分がその株を買ってからの期間ばかりを見ていることと、株価の良し悪しを自分の買値を基準に判断することに特色がある。冒頭の質問のような行動をする投資家は、このように考える投資家である公算が極めて大きいように思える。

 前者に関しては、ある銘柄に関して、業績の推移や、情報の変化に対する株価の反応などを評価するには、自分が買ってからの期間ではなく、もう少し長い期間を見る必要がある場合が多い。また、場合によっては、類似の情報に対する反応のデータを見るために、その株を保有している期間をまったく含まない時期の動きを見る必要がある。

 後者に関しては、プロも含めて、どんな投資家も多少の拘(こだわ)りを持つことがあるが、これが強い投資家は、自分で自分の行動を制約してしまう。時には、「まだ買値まで戻らないから、売れない」などと、投資の意思決定が株価に隷属するような心理状態に転落することもあり、こうなると重症だ。

 しかし、自分の買値は、将来の株価の動きにとって何ら関係ない材料であることがほとんどだろう。自分の買値に投資判断が影響されるということは、過剰な自意識の表出を我慢できずにいる、かなり「恥ずかしい」行為だといえる。

 もっとも、「買値へのこだわり」は、ダニエル・カーネマンらが「プロスペクト理論」で定式化した内容(の一部)にピタリと当てはまる(「価値関数」を考える際に、「参照点」=「自分の買値」とすればいい)。したがって、これの心理は、特に投資が下手な素人だけでなく、投資家全般の克服すべき性癖として、なかば先天的に存在しているとしても不思議はない。

 オリジナルの質問との関わりで言うと、今回取り上げた10の難点の中には、投資家の心理状態を推測した幾分こじつけ気味のものもあるが、「難点」自体は、かなり一般的なものだ。素人投資家だけでなく、プロ投資家もなかなかこれらを完全には克服できない。

 資産運用全般にいえることだが、自分の「感情」を客観視することと、「ポートフォリオ」はどう扱ったら合理的なのかに絶えず注意することが必要だ。素人の直感はしばしば間違いのもとだ。プロの感情も時に正しくない。

【追記】

 株式ポートフォリオの原則について述べている記事。「素人投資家」を例に挙げながら、実は世の中に少なくない基本を分かっていないプロを意識して書いた(少し意地悪な)原稿であることを、後から読んで思い出した。「厳選した○○銘柄で運用する」などと無用に力んで銘柄数を自ら制限するアクティブ・マネジャーや、そのような運用に感心する素朴な信者が、からかいの対象だ。

 近年、個人投資家に資産形成の目的で個別株投資をしてほしいと思う一方で、個人が安価に利用できるポートフォリオのリスクを管理するツールがないので、相対比較上インデックス・ファンドを勧める以外に適切なアドバイスがない、というジレンマに悩んでいる。個別銘柄投資を「自分で行う」ことは、良い趣味で面白い(アクティブファンドを選ぶよりもはるかに!)と思うので、ツールの提供方法を考えるなり、ポートフォリオを作る簡便法を開発するなり、何とかしたいと考えている。(2019年10月1日 山崎  元)