素人の難点8:過去の株価の動きが将来の株価に影響すると思っている

 素人の難点6も7も、そもそも過去の株価の動きが、将来の株価の動き(より正確には「投資収益率」)に影響すると思っていることが原因だと言える。しかし、過去の値動きのパターンで将来のリターンは有効に予測できないと考えるのが、運用業界、あるいはファイナンス研究の常識だ。

 だが、素人投資家の中には、過去の値動きこそが主要な投資判断の要素だと思っている投資家が少なからず混じっている。例えば、チャート分析だけで投資している投資家がいないわけではない。

 これには、チャート分析は誰にでも手軽にできるので、未経験者を投資の世界に引きずり込むにはチャートを教えるのがてっとり早いと考える証券業界側のたくらみが影響しているかもしれない。この傾向は、固定手数料で株式売買による収入が証券会社にとってもっと大きかった昔の方がもっと顕著だったように思う。

 本当は、「チャートでタイミングが判断できる」などといった嘘を教えずに、「チャート分析なんて、やってもムダだから、ハマらない方がいいよ」と教えてあげるのが役に立つ親切というものだ。

「値動き」も場合によっては情報の一部であり、判断すべき要素に入ることはあるが、その多くは、業績予想の変化などと併せて判断すべきものだ。過去の値動きのパターンだけが有効な材料になることは稀だ。

 年金運用などのプロの世界では、テクニカル分析はまともな投資分析として相手にされないことがほとんどだが、それでも、密かにチャート分析を愛用するファンドマネジャーもいるにはいる。これは、プロといっても、結局、十分な判断材料を持たずに売り買いすることが多いことの表れだ。

 また、証券会社には「テクニカル・アナリスト」を名乗る「専門家」がいることもある。これは、もっぱら素人顧客に対応するためだが、雑誌にしばしば占いのページがあるようなものだと思えばいいだろう。