2.拡大するイメージング&センシング・ソリューション事業

 ソニーのイメージング&センシング・ソリューション事業(I&SS事業)が拡大しています。2020年3月期1Q(2019年4-6月期)は、売上高2,307億円(前年比14.1%増)、営業利益495億円(同70.1%増)と大幅増益となりました。I&SS事業売上高の85%を占めるイメージセンサーが好調です(ソニーの市場シェア42%、2位はサムスン21%)。

 過去数年間にわたって傾向的に、スマートフォンのカメラの多眼化、レンズの大口径化が進み、スマートフォン向けイメージセンサーの販売数量が増え、大口径化による単価上昇が実現してきましたが、今1Qもこの傾向が強く出てきました。特に、このトレンドを主導してきたiPhoneだけでなく、ファーウェイ、サムスンなど大手スマホメーカーが今年に入って4眼スマホを発売したことが、スマホカメラの多眼化、大口径化の流れを一層強いものにしました。

 今年9月発売の新型iPhoneは、最上位機種が3眼カメラになりイメージセンサーも大判化するため、高級スマホは昨年までの2~3眼から今年以降は3~4眼となると予想されます。イメージセンサーの面積が拡大する傾向(大判化)も変わらないと思われます。ソニーはサムスンとの競争に備えイメージセンサーの大型設備投資を続けていますが、最近の動きは、減価償却費や研究開発費の増加を十分吸収してI&SS事業の業績を拡大させるものとなっています。

3.マイクロソフトとの提携は、ソニーにとって死活的に重要になると思われる

 2019年5月、ソニーとマイクロソフトは、クラウドゲームと法人向けAIソリューションの開発に関する戦略的提携に向けた意向確認書を締結しました。具体的には、ゲームやコンテンツのストリーミングサービスにマイクロソフトの商用クラウドサービス「Microsoft Azure」を活用することを共同開発することを検討します。また、ソニーのイメージセンサーとマイクロソフトのAI(人工知能)を統合した新しいインテリジェントセンサーの共同開発も検討します(法人向け)。

 両社とも明言はしていませんが、前者のクラウドゲームサービスの共同開発の検討は、2019年11月から欧米でサービス開始となる予定のグーグルの「Stadia」への対抗策と考えてよいと思われます。

 後者は、両社にとって全く新しい分野(特にマイクロソフトにとって)です。法人向けとあるため、スマートフォンのような民生向けだけでなく、自動車、FA(ファクトリーオートメーション、工場の自動化)、医療などでの応用の可能性もあります。

 これは全くの私見ですが、今回の提携に向けた交渉については、ソニーとマイクロソフトの姿勢に温度差がある可能性もあります。マイクロソフトはもともとクラウドゲームを自前で行うつもりです。2018年10月にクラウドゲームサービス「Project xCloud」を発表済みです(ただし、開始時期は未定)。世界第2位の商用クラウドサービスである「Azure」(2018年10-12月期の世界市場シェア15%。1位はアマゾンのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)で世界市場シェア35%)を立ち上げて大成功させたマイクロソフトであれば、自前でクラウドゲームサービスを立ち上げることには大きな困難はないと思われます。もっとも、マイクロソフトの中でゲーム事業の占める比率は低いため、熱意は大きくないとも思われます。

 一方で、ソニーにとってマイクロソフトとの提携の成否は死活問題となる可能性があります。インターネットに関する技術力と、資金力、開発力を含む企業規模に差がありすぎるため、クラウドゲームの市場でグーグルに対してソニーが単独で対峙することは、短期的には可能でも長期的にはかなり難しいと思われます。

 例えば、グーグル傘下のYouTubeの全世界月間マンスリーアクティブユーザー数は19億人(ログインしたユーザーの数)で、ログインせずに使っているユーザーを加えるともっと多くなります。グーグルはこの数のユーザーに動画を届ける大規模高速ネットワークを全世界に構築しており、Stadiaではこのネットワークに大量のゲームサーバーを設置すると思われます。

 これに対して、ソニーのPS4の累計販売台数≒プレイステーションネットワークのユーザー数は約1億台(約1億人)です。ソニーのクラウドゲームサービス「プレイステーションNOW」のユーザー数は約70万人です(最近の家庭用ゲーム市場の動きとクラウドゲームについては、「楽天証券投資WEEKLY2019年9月13日号」を参照)。

 もし将来(例えば3~5年後、あるいは5~10年後に)、クラウドゲームに技術革新が起こり、従来問題だった「遅延」が軽減あるいは解消されゲームの主流がクラウドゲームになったときのことを考えると、ゲーム事業が最大事業になっているソニーはグーグルに負けるわけにいきません。また積極的に考えると、クラウドゲームが使えるものになれば、スマホゲームに取られたライトユーザーをクラウドゲームでソニーが取り返すことも可能になります。

 そこですでにグローバルな大規模ネットワークを保有しているマイクロソフトとの提携が必要になってくると思われるのです。ただし、マイクロソフトはゲームよりもソニーのイメージセンサーとマイクロソフトのAIの組み合わせに関心を持っている可能性があります。例えば、自動運転の分野です。世界のITサービス会社はほぼ例外なく自動車分野に関心を持っています。商用車を含めた世界の自動車総販売台数は2018年9,506万台で1億台が目前ですが、これが電動化、ネットワーク化し、自動運転の時代を迎えようとしています。