4.ソニーは自動車市場に重要な布石を打った

 自動車市場に対してソニーは重要な布石を打っています。ソニーは2016年に、デンソー(現在ボッシュに次いで世界2位の自動車部品メーカー)に対してイメージセンサーを納入することに成功しました。現在カローラのADAS(先進運転支援システム)用カメラの眼に使われており、高い評価を得ています。自動車向けイメージセンサーの売上高はまだ小さいもようですが、デンソーはトヨタグループ(2018年の年間販売台数1,060万台、以下同様)だけでなく、日系では本田技研工業(532万台)、スズキ(333万台)、米系ではGM(838万台)、フォード(598万台)、フィアット・クライスラーの北米部門(253万台)と親密です。親密先の年間販売台数は合計で3,000万台を超えています。

 従って、ソニーとイメージセンサーで提携することは、マイクロソフトのAIをトヨタグループを含む有力自動車メーカーに将来大量に納入することができる可能性を持つことにもなるのです。厳しい認証基準を持つ自動車メーカーにIT企業がいきなり接点を持つのは容易ではないのですが、ソニーはすでに突破口を開けているのです。

 グーグルとの競争、クラウドゲームの将来性と、イメージセンサーの将来性を考えると、ソニーはI&SS事業を売却することはないと思われます。実際に、I&SS事業の分離、上場を主張するアメリカの投資会社、サードポイントへの回答として9月17日付けで出されたソニーのCEOレターでは、I&SS事業をソニーは保有し続けることを明言しています。

 I&SS事業は、ソニーにとって重要な成長事業であるだけでなく、マイクロソフトとの提携の成否を決めかねない重要事業でもあるのです。

5.リスクはあるが、目標株価を6,700円から7,800円に引き上げる

 ソニーの技術とビジネスにはリスクもあります。ソニーの技術の基本は「映像」と「音」です。「映像」と「音」をエンタテインメントと一部産業向けの各分野で、ハードウェア、ソフトウェアの両面から徹底的に追求しようというのがソニーです。そのため、市場がすでに成熟化し、競争激化や長期的に見た場合市場の衰退もありうるテレビやカメラ事業も続けることになります。主力事業であるゲームでも、新しい敵であるグーグルとの競争が迫っています。

 楽天証券によるソニーの業績予想は、各事業の業績予想を積み上げて全社業績を予想しているため、今回の予想では、今期、来期とも以前のソニーに比べればはるかに高水準の業績が予想されますが、中長期的にはこのように無視できないリスクも抱えています。

 今後6~12カ月間の目標株価を7,800円とします。今回の2021年3月期楽天証券EPS予想411.6円に想定PER20倍弱を当てはめました。前回の6,700円から引き上げます。リスクはあるものの、一定の投資妙味を感じます。

グラフ1 ソニーの営業利益と当期純利益

単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

本レポートに掲載した銘柄:ソニー(6758)