共通通貨「ユーロ」の幻想

 出口の見えないEUの構造問題の元凶は何か考えると、共通通貨ユーロに行き着きます。今になってみると、経済構造がまったく異なる欧州の国々が統一通貨を持つという構想は、幻想だったと言わざるを得ません。

 ギリシャの債務問題を悪化させたのは、共通通貨ユーロの存在です。ギリシャは2001年に自国通貨ドラクマを廃止して共通通貨ユーロを採用しました。

 もしギリシャがEUに加盟せず、通貨ユーロを使用していなければ、ギリシャの通貨ドラクマは、2001年以降、経常赤字の拡大とともに、対ユーロ・対ドルでじりじりと下落し続けたはずです。通貨が下落すれば、輸入インフレが引き起こされ消費が抑えられます。一方、観光業・海運業など外貨をかせぐ自国産業は活性化します。経常赤字拡大→通貨下落→輸入減少・輸出活性化→経常赤字減少という「教科書的な為替調整機能」が働いていたはずでした。

 ところが、ギリシャはドイツの信用で支えられた通貨ユーロを使用していたため、通貨は高止まりし、為替による調整機能が働きませんでした。ユーロを使い続けていたギリシャは、経常赤字を拡大させても通貨安による輸入インフレに見舞われることがありませんでした。それで、さらに経常赤字が拡大するという構造に陥りました。

 スペインもポルトガルもイタリアも、大なり小なり同じ構造問題をかかえています。自国通貨が下がることによる「消費抑制効果」が働かないため、過剰消費は抑えられません。そのまま放置すると最後は、ドイツなど経済強国からの補助金で、埋め合わせなければならなくなります。そうなっては困るから、ドイツはEUを通じて緊縮財政を強制します。

 スペイン・ポルトガル・イタリア人は、自国通貨の下落によるインフレによって消費が抑圧されるならば、それは自国経済が弱い為とあきらめるでしょう。ところが、EU・ドイツの命令で、緊縮財政をやらされ、それで消費が抑圧され、景気が低迷していると聞かされると、EUへの怒りが蓄積していきます。

 今のところ、南欧諸国の反EU勢力は、「反緊縮」「反移民」を唱えているだけで、EUからの離脱を明確には宣言していません。自国通貨を捨て、共通通貨ユーロを採用してしまった以上、それを自国通貨に戻すにはあまりに巨額のコストがかかるからです。EUに留まった上で、EUの規制に反旗を翻すスタンスをとっています。

 英国がEUからの離脱を決断できたのは、通貨まで共通化せず、英ポンドを残していたからです。通貨を人質にとられたEU諸国は、EUからの離脱を簡単に口に出来ません。ただし、イタリアやフランスで反移民・反EUを唱える政党が急速に勢力を拡大するなど、欧州各地で反EU勢力が拡大しています。