10月末のEU離脱阻止に野党各党は共闘、与党議員も一部造反、ボリス・ジョンソン首相は9月議会を閉会として対抗

 合意なき離脱のリスクが出てきたことに危機感を強めた野党各党は共闘し、9月2日に再開する予定であった英議会で、強硬離脱阻止に動くはずでした。ところが、ジョンソン首相は、なんと9月中の英議会を閉鎖することを決めてしまいました。強引に反対論を封じ込めてしまった形です。議会は10月半ばに再開する予定ですが、そこから野党が10月末のEU離脱阻止に動いても、時間切れで、EU離脱が実行される可能性もあります。

 実質議会を無視する形で、首相の権限を活用して離脱を実現するやり方に、英国内では驚きととまどいが広がっています。それでも、今のままでは本当に10月末に「合意なき離脱」となってしまう可能性もあります。

 これに対し、野党と与党の造反議員が、共同で「EU離脱を3か月延期する法案」を提出する動きがあります。3か月延期することで、とりあえず、10月の合意なき離脱を回避する策です。ジョンソン首相は、そうなることが明らかならば、「解散総選挙」を実施し、国民の信を問うと述べています。10月に解散総選挙となる可能性も出ています。ジョンソン首相の真のねらいは、解散総選挙を引き出すことにあるとの解釈もあります。

マーケットは意外と平静

「合意なき離脱」の可能性が出てきたというのに、世界の株式市場は意外と平静です。世界の株式市場は過去3年、何度も「ブレグジット(英国のEU離脱)で世界経済が深刻なダメージを受ける」という話しに脅かされ続けてきたので、だんだん同じ話に驚かなくなってきている可能性もあります。たとえるならば、「ブレグジットで大変なことになるぞ」という話がイソップ童話の「おおかみ少年」のようになってしまっています。

 最初に、ブレグジットの恐怖に世界の株式市場が怯えたのは、2016年6月でした。英国の国民投票でEU離脱派が残留派を上回ったとの結果が出ると、世界の株式が一時暴落しました。事前に「ブレグジットが可決されればリーマン・ショック並みの経済危機が起こる」といった大げさな話が、残留派のエコノミストから出されていたからです。現実には、ブレグジットが可決されても、リーマンショックは起こりませんでした。実際の離脱には、2年以上の猶予期間があったからです。すぐには何も変わりませんでした。世界経済は、逆に2016年後半から回復に向かい、世界的に株価が大きく上昇しました。「ブレグジット・ショック」は、絶好の買い場を提供しただけでした。

 それから3年かけて、いよいよ離脱という段になって、もっとも恐れられていた「合意なき離脱」リスクが出てきています。これこそが、最大のリスクですが、マーケットは意外と平静です。

 イソップ童話では、最後に本当に狼がやってきた時に、誰も助けに向かわず羊がみな狼に食べられてしまうというオチでした。本当に狼(合意なき離脱)は来るのでしょうか? 狼(合意なき離脱)が来た時に、大惨事(英国・EU経済の混乱)は起こるのでしょうか? 今後の展開を見極めていく必要があります。