1.各サービスが高いシェアを有している

 類似の安価なサービスは多数ありますが、PhotoshopやPDFは各分野で業界標準の立場を築いていると言えます。アドビは近年、これらのサービスを月額制のサブスクリプションモデルとして提供しているため、価格面でも以前より手が届きやすいサービスになっています。

 この業界標準のポジションは、競争の激しいソフトウェア、クラウドサービスの中で特に貴重です。この業界ではマイクロソフトをはじめ、各社が全方位で総合的なクラウドサービスを展開する動きを見せていますが、アドビの製品はそれに飲み込まれにくい独自のポジションを築いていると言えます。

2.デジタルメディア市場が拡大する見通し

 アドビは2021年のデジタルメディア領域の市場規模を367億ドル(日本円で約4兆円)と予測しています。同社のデジタルメディア事業の売上高は63億ドル(日本円で約6,800億円)(2018年11月期)だったため、成長余地がまだ残されています。同社は業界のリーダーとして市場の活性化を図っており、サブスクリプションモデルによる新規ユーザーの獲得や海外市場の開拓を続けていますが、筆者が特に注目している同社の動きは以下2点です。

  • モバイルへのサービス拡大
  • 動画やSNSなど時代に沿った需要の開拓

モバイルへのサービス拡大
 モバイルでも使えるコンテンツ作成アプリの開発により、ユーザーがコンテンツ制作に関わる新しい機会を作っています。ビジュアルコンテンツの作成は基本的にデスクトップパソコンで行うものでしたが、同社はさまざまなモバイルアプリを開発し、デスクトップパソコンとモバイルデバイスでコンテンツを常に同期できるようにしました。モバイルアプリの一部は最初は無料で試せますが、継続利用の場合は有料になります。

 このデスクトップからモバイルへの流れは、かつてフェイスブックの利用者がパソコンからスマートフォン(スマホ)へ移行し、その結果ユーザーとフェイスブックとのコネクションが深まったことを想起させます。コンテンツ制作でもモバイルの使用が定着すれば、ユーザーのアドビ製品に対するロイヤルティは深まり利用頻度が高まると考えられます。

動画やSNSなど時代に沿った需要の開拓
 アドビは時代に沿った有効な製品を積極的に展開しています。力を入れているのは動画コンテンツ作成ツールで、新機能では高速で確実な編集ができる他、動画の中の不要な物を容易に見えなくすることができます。

 代表的な新サービスは以下の通りです。
「Premiere Rush」というアプリは、手早く動画コンテンツを作成し、フェイスブック、インスタグラム、ユーチューブなどのソーシャルメディアに直接投稿できることが特徴です。現在アンドロイドにも対応したことから、今後はさらなるユーザー獲得が予想されます。「Adobe Spark」は、教師や店舗のオーナーなど、コストをかけずに簡単にコンテンツを作りたいユーザー向けにサービスを提供し、現在急速に人気が出てきています。直近ではブラジル語、ポルトガル語など新たに5言語に対応しており、今後は世界的な広がりに期待が持てます。また、PDF分野でも、「Adobe Sign」というデジタル署名サービスを展開しています。