OPECプラスの減産、7月以降の延長は、増産枠の調整がカギ

 

 図:足元の原油相場の材料(全体像)の左下で示した“より多くの増産が可能”について説明します。OPECプラスの減産、延長の可能性と知られざる実態で書いたとおり、2018年6月のOPEC総会、OPEC・非OPEC閣僚会議で、前月5月に米国がイラン核合意を単独離脱したため、イランからの原油供給が減少することを見越し、減産順守率を100%に引き下げる(減産順守は維持する)ことを条件に、減産を継続しながら限定的な増産を可能にする決定が下されました。

 2019年、5月初旬に中国、日本などの8カ国への輸出を可能とした猶予期限が切れ、本格的にイラン石油制裁が始まりました。また、以下の図のとおり、2018年と同様、5月(OPEC総会の前月)の減産順守率が記録的な水準まで上昇していること、それを支えたサウジの原油生産量が2017年1月の協調減産開始以降、最低水準まで減少していることなど、2018年と状況は非常に似ています。

 以下の図の通り、2019年5月19日のJMMC(共同減産監視委員会)で公表された4月の減産順守率は、168%と記録的な水準となりました。OPECプラスはこの高水準の減産順守率をフル活用、そしてイランの原油生産のさらなる減少を補うことを口実に、2018年同様、減産を順守しながら限定的な増産を実施する、という行動に出る可能性があります。

図:OPECプラスの減産順守率

出所:JMMC(共同減産監視委員会)のデータより筆者作成

 

 現在の減産はOPECプラス全体で、2018年10月比(一部例外有)、日量およそ120万バレルを削減することになっています。120万バレル削減できれば減産順守率は100%になります。

 減産順守率が168%(削減量は日量およそ200万バレル)だとして、減産順守率を100%まで引き下げれば、単純計算で、2019年4月に比べて、日量およそ80万バレルの増産ができます。減産順守状態を維持しながらです。

 5月19日のJMMCで非常に高い減産順守率が公表されたことは、7月以降の減産継続に向けた準備が着々と進んでいる証しであると筆者は考えています。

 ロシアが減産継続に難色を示しているとの報道がありますが、日量80万バレル(4月比)もの大きな規模の“増産枠”を分け合うことを軸に、交渉が行われる(行われている)と考えられます。

 サウジを始めとしたOPECと、ロシアを始めとした非OPEC10カ国、合計24カ国の協調体制が維持され、減産を継続している、そしてその減産がしっかりと順守されている、ということになれば、原油相場は(これも2018年同様)上昇する展開になると考えられます。

 5月19日のJMCCでは、減産の必要性を示唆する世界の石油在庫の増加をけん制する発言、限定的な増産の必要性を示唆する高水準の減産順守率、および限定的な増産をしながら減産を実施することを決定した2018年6月のOPEC総会についての言及がありました。

 先述のとおり、減産継続の下地はトランプ大統領が作ったと考えられますが、後は、OPECプラスが減産継続を決定する最後の調整を行うだけと言えます。

 一部ではOPEC総会が7月に延期になる可能性がある、などOPECプラスの中で調整が難航していることを思わせる報道もあります。また、トランプ大統領の方針が変わることに注意が必要です。