イランを含んだ中東情勢は材料の1つに過ぎない

 中東地域の原油生産シェアが高いため、この地域でリスクが高まると、世界的に原油の供給が減少する懸念が強まり、原油相場が上昇することがあります。

 例えば、イランとオマーン(飛び地)の間にあり、ペルシャ湾とインド洋をつなぐ、ホルムズ海峡という海峡があります。世界全体の原油輸出量のうち、およそ35%の原油が運ばれる(2017年時点 筆者推計)、世界屈指の海洋交通の要衝です。中東の大国イランをめぐる緊張が高まった際、イランは封鎖をほのめかします。

図:ホルムズ海峡を通る原油の国別輸出シェア

出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータより筆者推定

 イランはホルムズ海峡封鎖という外交カードをちらつかせている訳ですが、そのホルムズ海峡を経由して輸出されるのは、上図のとおり、サウジアラビア、イラク、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、そしてイランの原油です。

 仮に、機雷(タンカーなどの船舶が触れると爆発する洋上の地雷のようなもの)を設置するなどして、イランが“ホルムズ海峡封鎖”というカードを実際に切った場合、原油輸出額が全輸出額の50%を超えるイラン自身にもマイナスの影響が生じます。

 現在、米国による制裁でイラン産原油の世界的な不買運動が行われている中、イランは米国の制裁に屈することなく、原油を輸出し続ける姿勢を鮮明にしており、イラン自身、原油の輸出を削減する予定はないとしています。つまりホルムズ海峡を封鎖するつもりはないことを示唆しているわけです。

 中東情勢悪化を報じるニュースはインパクトが強く、そこに危機があることがはっきりと伝わってきます。特に、原油輸入において中東依存度が高い国では、中東情勢の悪化が報じられると、原油の供給が著しく減少して生活が脅かされるのではないか? という不安が高まりやすくなります。

 中東情勢悪化を報じるニュースは、インパクトの強さ、そこに危機があることの分かりやすさ、原油輸入国の不安を高める、などの特徴を併せ持っています。心理面に響きやすい材料だからこそ、中東情勢悪化は原油価格を上昇させる材料になりやすいと言えます。

 しかし、足元、原油相場は1バレル=60ドルを割り込むなど、上値の重い展開となっています。

 イランを含んだ中東情勢悪化→ホルムズ海峡封鎖→原油価格上昇、という連想だけでは、足元の原油相場を説明することはできません。分かりやすい材料だけに目を向けることなく、さまざまな材料に注目し、そして俯瞰することが重要です。