通貨の「ほどよい信認低下」が重要だ

「財政赤字を拡大する」さらに「国債を日銀に買わせる」と言うと、「通貨の信認が損なわれる(ので、大変だ!)」と反応する向きがあるが、これは誤解か過剰な反応だ。

 財政赤字拡大にその国債によるファイナンスを組み合わせることの主な弊害はインフレであり、インフレが昂進する状態が通貨の信認が大きく損なわれた状態なのだが、現在は、「インフレが心配」な状況ではなく「インフレが足りない」のが問題なのだから、財政赤字の拡大と日銀による国債の買い上げで金融緩和を拡大することは適切なのだ。

 将来の通貨価値が高いと信用される状態が通貨の信認だが、この種の信認が過剰な状態こそがデフレだ。

「2%」のインフレ率が適切なら、大まかには、これよりも低インフレの時には金融緩和、高インフレの時には金融引き締めを行えばいい。

 

「いったんインフレになると、ほどほどのインフレに抑えることが難しい」と心配する向きもあるが、金融引き締めと財政緊縮の組み合わせでインフレを抑えることは十分可能だ。

 経済政策は一つの状態を均一かつ永遠に行うと考えるべきものではない。状況によって適切な政策は変化するし、将来変化が可能だとの前提で議論すべきものだろう(考え方は、企業の経営と似ている)。

 なお、(1)政府が発行した国債を、(2)市中銀行が買ってすぐに日銀に売却し、(3)日銀が国債を保有し、(4)日銀が市中銀行に渡したお金が(市中銀行が日銀に保有する)準備預金口座に積み上がっている状態は、日銀は政府の持ち物なのだから、政府が発行した(普通は有利子の)国債が(無利子の)通貨(日銀の準備預金)に入れ替わっている状態に過ぎない。政府と日銀を連結して見るなら、日本の財政及び通貨制度は破綻するような危険がある状態では全くないことが分かる。

 ただし、この状態でも銀行貸出が増えて、市中に出回る通貨が増え、物価が程良く上がる状況が実現しないことが目下の問題なので、(A)民間経済がもっと金を使いたくなるような条件を整えるか、それが難しければ(B)政府が需要を追加するか、どちらかが必要なのが現状だ。