消費税と社会保障費を直結させるべきでない

 世間には、いろいろな理由で消費税率を予定通り引き上げる方がいいと論じる人がいる。

 そうした人の言い分でどこか奇妙なのは、「消費税率を上げないと、社会保障の財源がない。消費増税が決まって、社会保障の財源が確保される方が、消費者は安心して消費できるから経済にとってプラスになるはずだ」という議論だ。

 部分部分に分けた時に論理として全てがおかしい訳ではないが、消費税と社会保障費を直結させて、後者の拡大に対応するには前者が必要だと論じるのは適切ではない。

 そもそも政府の財源は消費税だけではない。他の税金もあるし、各種の社会保険料もある。また、政府の支出も社会保障以外に数多くある。

 問題は、消費増税が決まった民主党の野田政権時代に遡るが、当時、消費税の税収を社会保障支出の財源として半ば目的税化するというロジックの響きの良さ(?)に民主党サイドが流されてしまったと筆者は考えている。

 財政を考える上での慣行として、

(1)何らかの新たな支出や減税を行うには、これを手当する財源が個々に必要だとする考え方があるが、これを前提とした時に、
(2)社会保障費支出の増加を賄うにはこれに対応する財源が必要で、
(3)それには消費税以外にない

という論理に追い込まれた。

 しかし、この議論は、前提条件(1)がおかしい。あまりに硬直的で非効率的だ。

 企業の財務が、「その時々に」適正なレバレッジを目指しながら、資金調達の手段を考える一方で、設備投資・研究投資や経費支出などの支出のバランスをとればいいのと同様に、政府の財政にあっても、その時々に(A)経済政策として適切な財政の帳尻を実現しつつ、(B)適切な歳入手段と、(C)優先度に従った歳出内容の優劣を決めたらいい。

 デフレ脱却を目指す「現在の」政策環境下にあって適切なのは、(A)緊縮財政ではなく財政赤字の拡大による需要の追加であり、(B)財源としては国債を増発して日銀に買わせることが金融緩和の拡大につながり、(C)社会保障支出は支出の中で優先度が高いので「財源がない」と国民を脅して不安にさせることは不適切だ。

 どうしても消費税率を引き上げることを前提とするなら、消費税の増税分を上回る恒久的な支出か減税で効率的かつフェアなもの(例えば基礎年金の全額財政負担などがいいだろうか)を創出して財政赤字の帳尻を拡大する方法があるが、新たな措置を作るよりは消費税を上げない方が素直だろう。