2014年時の消費税率引き上げを振り返る

 こうしたプロセスの途中で、消費を冷やす影響を与えてしまい、借入に対する需要に急ブレーキをかけたのが2014年の消費税率引き上げだった。

 本来であれば、企業が投資に自信を持てず、経済全体として資金需要が不足している状態にあっては、政府自身がお金を使うか、あるいは消費者に購買力を付与するような政策が必要だった。

 経済に需要が追加されたなら、銀行貸出が伸びて市中に出回る預金通貨を含む「お金」のモノやサービスに対する相対的な量が増えて、物価が上昇して目標である「2%」に近づいたかもしれないのだが、現実に行ったことは、増税による需要の吸収だったため、悪影響が大きかったのが前回の消費税率引き上げだった。

 推測だが、日銀も政府も、それまでの金融緩和政策の株価や為替レートに対する効果が大きかったことから、「消費税率を上げても、日銀による金融緩和政策だけで景気もインフレ目標も大丈夫だ」と過信したのだろう。

 その後日銀は、長期金利(10年国債の利回りなど)をゼロ近辺に保つ政策や、ETF(上場型投資信託)の買入拡大などの政策を追加的に打ち出したが、「消費者物価上昇率で2%」とした目標は達成できる見込みが立っていない(3月の全国の数字で対前年比+0.8%に過ぎない)。

 そして、長期金利を一定水準にコントロールする現在の政策は、政府の財政収支と国債の発行量が、経済全体の需要に影響することに加えて、ベースマネーの供給量にも大きな影響を与えることを意味する。つまり、現在、増税は財政政策であると同時に、金融引き締めの方向に作用する金融政策でもあるのだ。

 予定されている通り10月に消費税率が引き上げられた場合、景気にマイナスなだけでなく、金融引き締め的な政策効果が生じてインフレ目標の達成に対してマイナスに働く可能性がある。他国の政策との兼ね合いにもよるが、他国の政策を一定とすると、為替レートについては円高材料になる可能性が大きい。

 いわゆるアベノミクスが始まった頃に、

(1)金融緩和だけでインフレにできるはずだ
(2)金融緩和が限界に達したら財政赤字を拡大すると目的のインフレ率にできるはずだ
(3)減税や財政出動は財政政策なので金融政策だけでインフレ目標が達成できない場合もあるので(1)は間違いだ

…といった諸説が入り乱れたが(当時の筆者個人は(2)説だった)、目的とする状態を作る上で必要なら、(1)でも(2)でもいいのではないかと今でも思う。

 狭義の金融政策だけでインフレ目標の達成が可能かどうかという論争は不毛だ。

 率直に言って、今増税することは、インフレ目標2%を目指して金融緩和政策を行っていることと矛盾する。

 しかし、狭義の金融政策は日銀、財政政策は財務省、とナワバリが決まっている日本の場合、日銀にあっては増税に反対するような意見を表明することが難しいのだろう。金融緩和に積極的な(いわゆる「リフレ派」の)政策委員が複数いるはずの日銀筋から直接的に増税に対する反対の声が上がらないのは少々物足りないが、組織や立場というものは現実の個人にとって大きな制約なのだろう。

 また、ナワバリ以外に日銀にとって難しい要素として、発言のメッセージ効果の問題がある。つまり、「財政政策の協調がないと、金融政策が十分効かない」と言ってしまうと、金融政策自体の効果を削ぎかねないという問題がある。「金融政策だけでインフレにする手段はいくらでもある」と言う方が国民はインフレになるという期待を形成しやすいだろうという理屈が働くので、そう言い続ける方が政策目的に叶う面があるのだ。

 しかし、ナワバリやメッセージといった気分の問題以上に、金融緩和の効果が出にくい時に財政政策が緩和に逆行する(差し引きで増税する)ことの大きな悪影響こそを気にするべきだろう。もちろん、政治家や財務省にとっても同様だ。

 経済政策として考えた時、今、増税すべきではない。