それでも「トレンド」は存在する

 このレポートの目的が「テクニカル否定派VS肯定派」ではないため、これ以上の深堀りはしませんが、否定派の主張である「過去の値動きが繰り返されるわけではない」ということと、「株価は割と効率的に材料を織り込んでいる」ということは事実です。しかしながら「株式市場はそこまで完全ではない」ということも重要です。

 まず、株式市場は多くの売買が行われることにより、適正な株価が決められる場所でもありますが、投資家にとってはさらに「利益を狙う」という目的を持って参加する場所でもあり、株価の決定に投資家の思惑や心理が関わってきます。

 例えば、トレンドが株価の上げ下げを繰り返しながら形成されるのも、人間の心理が影響している面があります。効率的市場仮説の立場では、明日の株価の上げ下げの確率は五分五分です。ただし、あまりにも上昇や下落が続いてしまうと、「そろそろ下げて(上げて)もおかしくはない」と考えがちになってしまい、売買を急いでしまうことがよくあります。こうした心理は「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」と呼ばれています。

 また、強いトレンドが発生しているときは、これまでの抵抗や株価水準の節目を超えて、さらに予想以上に株価が動くことも珍しくありません。株式取引で利益が狙えるのは株価が動いているときですが、先ほどの図では、第2ステージ(上昇局面)と第4ステージ(下落局面)が該当します。

 利益のチャンスがある以上「積極的な売買が行われている限り、行けるところまで行ってしまえ」という心理が働きやすくなります。仮に株価が行き過ぎたとしても「後で調整されるのだから別にいいじゃん」というわけです。

 さらに、移動平均線がサポートや上値の抵抗として機能するのも、多くの投資家が注目するテクニカル指標だけに目安として意識された結果である場合もあります。結果的に見通しを自分で実現させていることになります。

 確かに、テクニカル分析の基となるチャートは単なる売買の記録ですし、未来を予測することは不可能ですが、そこには投資家の思惑や心理が反映されています。著名投資家のジョージ・ソロスも、市場の価格形成は「本当の現実」と「(投資家が)認知している現実」とのギャップの拡大と縮小で行われるという見方をしています。

 過去の記憶や経験を引きずって明日の取引へと望むことが考えられる以上、株価の値動きはランダムとは言い切れず、株価の連続性やトレンドが形成される余地はあると思われますし、チャートから得られるものは少なくないと考えられます。

 今回はテクニカル分析に対する考え方の話が中心でしたが、次回からは通常のレポートに戻ります。また、本レポート『テクニカル風林火山』は2014年の5月に連載が始まりましたので、ちょうど6年目を迎えることになりました。引き続きよろしくお願いいたします。