サウジは、価格下落に対して目立った反応を示していない。「何もしない」が下落に拍車

 今週初め、OPECの議長を務めるUAE(アラブ首長国連邦)のマズルーイ氏(任期は12月まで)が、2019年6月までを予定している減産の期間延長や規模拡大に含みを持たせる発言をしました。しかし、原油価格の下落は止まりませんでした。

注:減産合意の内容は「減産合意もOPEC存在価値は下落。2019年の原油価格の支配者は誰か?」 にレポートしています。

 減産の期間延長・規模拡大という、これまでであれば市場が好感し、原油価格の上昇に結びついてきた発言であったにもかかわらず、原油価格の下落は止まりませんでした。

 下落が止まらなかった要因に、この発言の主がUAEの人物であり、サウジの当局者でないことが挙げられます。サウジという、これまでOPECを力強くけん引してきた国の人物の発言ではなかったことは、リーダー不在を感じさせ、今後の減産実施へ不安をにじませます。

 マズルーイ氏は、12月6日のOPEC総会の際も、OPECの顔役のような存在感を示しました。10月に発生したサウジ記者事件をきっかけに、トランプ米大統領との関係で微妙な立ち位置となったサウジと対象的です。

 そのサウジは、過去のレポート「OPEC総会目前で30%超の原油下落!逆オイルショックに警戒せよ」 で述べたとおり、逆オイルショックを起こす動機があると考えられます。
 サウジが、重要な発言をUAEの担当者に任せて「何もせず」、原油価格の下落を静観していることは、以前の逆オイルショック時の、急落への対処を見送ったときに似ています。サウジが原油価格の下落を容認し、時間の経過とともに米国の原油生産量が減少するのを待っている可能性があります。

 目先の痛みよりも、市場からトランプ大統領率いる米国を退出させることができれば、米国やトランプ大統領の原油相場への影響力を極力排除した上で、再び、サウジ率いるOPECは原油価格の決定権を握ることができるとみられます。

 また、減産に参加する24カ国は、2019年1月から日量120万バレルの生産を削減することで合意したわけですが、その削減幅が単なる駆け込み増産分を減少させるだけの数字のトリックを使った見せかけの合意だったとみられる点は、あえて緩い減産目標を設定し、後に原油価格の下落を誘発することを目的としていたと考えることができます。

 総会で何かしらの合意がみられなければ結束力のなさを露呈することになり、組織への信用度の低下が懸念されます。そのため、削減幅が少なくとも、たとえ数字のトリックだったとしても、とにかく、12月6日のOPEC総会は減産で合意して体裁を保つことが目標だった可能性があります。

 

現在の急落が「第2次逆オイルショック」であれば、次の下値目途は33ドル!?

 現在の原油価格の急落が、サウジが意図して米国の退出を目指した「第2次逆オイルショック」の最中なのであれば、第1次と同様、いずれ米国の稼働リグ数が減少するとみられます。
リグとは掘削機(井戸を掘るための機械)のことで、その稼働数は、数カ月後の原油生産量に影響する指標として、第1次逆オイルショック時以降、特に注目されるようになりました。

図6:米国の石油掘削向け稼働リグ数の推移 単位:基

出所:ベイカーヒューズ社のデータより筆者作成

 図6の2015年前後のように、第1次逆オイルショック発生から数カ月後にリグの減少が顕著になりました。

 現在は足元の原油価格が45ドルという想定していたシェール主要地区の採算ラインを割ったため、数カ月後にこのリグの減少が顕著になる可能性があります。そして、このまま原油価格が採算ラインを上回らずに推移した場合、その数カ月後に米国の原油生産量が減少する可能性があります。

 このような、米国におけるリグ減少→原油生産量減少、という流れが本格化した場合、それまでの原油価格の急落を「第2次逆オイルショック」と呼ぶことになるのだと筆者は考えています。

 現状、原油価格が急落したからといって、すぐさま米国の原油生産量が減少するとは考えにくく、その意味では、米国の原油生産量の減少が発端となって、世界の石油需給バランスが引き締まり、原油相場が反発するという展開にはならないとみています。

 ただ、来年1月から始まる減産がきちんと守られていることがデータとして確認できれば、市場に安心感が広がり、その時点から徐々に反発する可能性があります。

 1月の生産量のデータは1月末から2月上旬にかけて各機関から公表されるため、減産参加国の減産順守による安心感が反発のきっかけとなるタイミングは、来年2019年2月ごろになると考えられます。

 目先、どこまで下落するかを想定することが難しい状況になってきましたが、この下落が「第2次逆オイルショック」なのであれば、第1次にならい、その安値は瞬間的には26ドル(2016年2月の安値)、月次終値ベースで33ドル(2016年1月の終値)、という価格を想定することになりそうです。

 引き続き、慎重に価格の推移を見守りながら、サウジや米国の出方に注目したいと思います。