原油相場はこの2カ月間で30%以上も下落しました。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は先週、一時50ドルを割り込む場面がありました。

 トランプ米大統領の原油価格の下げ圧力が強まっていること(心理面の下落要因)、世界の石油需給バランスなどのデータが悪化(データ面での下落要因)していることが下落の主因とみられます。

 この状況悪化を受け、投機筋の資金流出が原油価格の下落に拍車をかけている、という構図です。

 そして、いよいよ12月6日、今後の原油相場の動向を占う上で非常に重要なイベントと言える第175回OPEC(石油輸出国機構)定時総会が開催されます。今回のレポートでは、OPEC総会について減産継続・減産終了、などシナリオ別の影響を考えてみます。

 

原油相場の今後を占うOPEC総会は12月6日開催予定

 2017年1月から始まった産油国の原油の減産()が、2018年12月に終了します。

※原油の減産:複数の産油国が意図的に同時に生産量を減少させて、世界の需給バランスを引き締めること。原油価格の上昇要因となり得る

 減産には、2018年12月時点でサウジアラビアやイラン、イラクなどのOPEC(石油輸出国機構)に加盟する15カ国と、ロシアやカザフスタンなどの非OPEC諸国10カ国(米国は含まれない)の合計25カ国が参加しています。

 これらの国がおよそ2年にわたり行ってきた減産について、OPEC側のリーダーであるサウジと、非OPEC側のリーダーであるロシアを中心に、2019年1月以降の方針をOPEC総会で決めようとしています。この方針決定は大きく「減産終了」と「減産継続」の2種類に分けられます。

 この総会での決定方針が与える原油相場への影響は、次のようになると考えています。

図1:OPEC総会での決定事項が与える原油相場などへの影響

出所:筆者作成

 減産終了の場合は、需給バランスの引き締め策が終了することを意味するため、原油相場にとっては下落要因になるとみられます。

 逆に、減産継続となった場合は、需給バランスの引き締め策が継続することを意味するため、原油相場にとっては上昇要因とみられます。

 同時に注目したいのが、「一般消費者の代弁者」トランプ大統領への影響です。トランプ大統領は、「一般消費者にはガソリン小売価格などの下落は減税のようだ」とし、原油価格をさらに下げたい考えを持っているとみられます。

 このおよそ半年間で、トランプ大統領の原油相場への関与度が急速に高まったことについて詳しくは、前回のレポート「急落する原油市場はトランプの思惑通り?パラドックスに陥るサウジの生き延びる道は?」 で触れました。

 今回のOPEC総会は、来年2019年以降の新しい体制を決めなければならない、そして消費国の強い代弁者を考慮しなければならないなど、非常に大きな意味を持っています。

 そして、その決定事項が今後の世界の石油需給バランス、引いては原油価格に長期的に影響する可能性があり、注目が集まっているのです。

 

OPEC経済委員会勧告の136万バレルの減産では、「駆け込み」前の水準に戻るだけ

 11月30日から12月1日にかけて行われたG20(20カ国・地域)首脳会議の場で、サウジ記者殺害事件で渦中のムハンマド皇太子と、ロシアのプーチン大統領との対談の機会がありました。その後の報道では、ロシアが減産継続で合意したとされています。

 また、週末にはOPECに関わる組織であるOPEC経済委員会が、OPEC総会で2019年1月以降、2018年10月に比べて日量136万バレルの減産実施を決定することを勧告したと報じられています。

 この勧告は、OPEC総会の前日12月5日に予定されている減産監視委員会に送られ、6日のOPEC総会、その後のOPECと非OPECの閣僚会議で議論されると報じられています。

図2:OPECの原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:海外主要通信社のデータを基に筆者作成

 ロシアが減産継続で合意したとみられる件と、OPEC経済委員会の勧告の件は、OPEC総会で「減産継続」を決定するための調整が行われていることを示唆しています。

 仮にこの日量136万バレルの減産が行われることとなった場合、実際にはどのような効果があるのでしょうか。

 図2のとおり、2018年10月を基準に日量136万バレル削減した時の生産量は、おおむね、2017年1月に始まり今月で終える現在の減産において、当該期間中で最も生産量が少なかった時(2018年5月など)の水準と一致します。

 OPEC全体としては、今年5月に行っていた生産量に「戻す」ことが減産継続を実施することとなるため、大きな変化、負担はないとみられます。

 2019年5月まで石油制裁の猶予を得たイランには例外措置として現行同様、限定的ですが増産枠が与えられる可能性があります。

 今年5月の水準でOPECが原油生産を行えば、5月以降供給過剰に向かい、9月に供給過剰に転じた世界全体の石油需給バランスは供給不足に向かい始め、5月以降減少が止まり、ここ数カ月間増加が目立っていたOECD石油在庫の増加が止まるなど、データ面での改善が期待されます。

 なお、世界の石油需給バランスとOECD(経済協力開発機構)石油在庫の推移については「原油価格は20%下落の異常。産油国協議と今後の原油動向予測」で詳しくレポートしています。

 日量136万バレルの勧告は正に 「駆け込み増産」の枠をフル活用して、ある意味数字のトリックで減産を継続することを考慮したものといえますが、それでもデータが改善すれば原油価格は反発に向かう可能性が出てくるとみられます。減産継続となった場合、実際にデータが改善しているかどうかは、2019年2月に各種機関が公表する統計データを参照する必要があります。