買収で企業価値を高めてきた好配当利回りの4社

 巨額買収の評価は、短期的には定まりません。良い買収だったか、悪い買収だったか、最終的に決着がつくのに、10年以上かかることもあります。

 以下4銘柄は、買収巧者として、私は高く評価しています。思い切った買収で、企業価値を高めてきた実績があるからです。好配当利回り株としても、注目しています。

思い切った買収で企業価値を高めてきたと筆者が考える4社

コード 銘柄名 配当利回り 決算期 最低投資額
2914 日本たばこ産業 5.2% 12月 289,500
5108 ブリヂストン 3.5% 12月 461,200
8306 三菱UFJ FG 2.4% 3月 75,030
8766 東京海上HD 3.1% 3月 511,000

出所:配当利回りは会社予想ベース、楽天証券経済研究所が作成

 上記は、買収巧者で、現在予想配当利回りが高めの銘柄です。買収巧者といえば、ソフトバンクグループ(9984)(予想配当利回り0.5%)、日本電産(同0.6%)が有名ですが、どちらも予想配当利回りが低いので、上記リストには挙げていません。

(参考)ブリヂストンが世界トップ企業になるまでの苦悩

 大型買収の正しい評価は、10年、20年の長い年月を経てからでないと下せません。投資家やアナリストの評価は往々にして短期的で、大型買収の本質をわかっていないことが多いので要注意です。それをつくづく感じさせられるのが1988年のブリヂストンによる米ファイアストン買収です。世界企業として飛躍した今日のブリヂストンを見れば、この買収は大成功だったと結論づけることができます。ただし、その評価は二転三転しました。

 買収直後の1988~1992年、投資家やアナリストからは「割高な買収」と批判されました。イタリアのピレリ社と買収を競う形になったため、買収価格は当初予定より大幅に高くなりました。それに加え、買収直後に米GMがファイアストンからのタイヤ調達をやめる方針を発表したことや、ファイアストン工場の生産や品質管理に想定以上の問題があることが発覚したことが痛手になりました。

 ブリヂストンは歯をくいしばってファイアストンの立て直しにまい進しました。その成果でGMへの納入も再開し、ファイアストンは高収益会社に生まれ変わりました。1990年代にはブリヂストンの海外収益の柱として育ち「買収の好事例」としてアナリストから高く評価されました。

 2000年に買収の評価が再び暗転しました。米国で「ファイアストン製のタイヤを装着したフォード車が横転事故を起こし多数の死傷者が出ている」との報道が出てから、ファイアストン・バッシングが始まったからです。事故原因が特定されていない中で、ブリヂストンはファイアストン製タイヤ1440万本を自主回収しました。フォード社とは事故原因をめぐり訴訟になりました。

 この影響でブリヂストンは収益が悪化、株価も大きく下がり、「ブリヂストンはとんでもない会社を買収した」と批判されました。フォード車の事故については、最終的に「タイヤだけが原因ではない」との調査結果が出て、フォードとも和解し、ファイアストンは再び立ち直りました。長い苦労を経て、ファイアストンは今、ブリヂストンのグローバル戦略を支える要となっています。

 買収で売られる株、買われる株の評価は、短期投資家の視点ではなく、会社とともに生きる超長期投資家の目で見ていかなければならないと、私は痛感しています。

▼著者おすすめのバックナンバー

2018年4月18日:好配当利回りの参考銘柄「初心者はまず割安株から」と考える理由

2018年2月22日:「株主優待」が魅力的な好配当利回り株

2017年2月22日:米景気敏感株を見直し、ブリヂストンはトヨタより有望?

▼他の新着オススメ連載

今日のマーケット・キーワード:『日米首脳会談』は通商関係の解決を先送り

今日、あの日:32年前の4月26日「チェルノブイリ原発事故」