執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 米景気の回復色が強まっているので、米景気敏感株に注目。自動車とタイヤは、典型的な米景気敏感株だが、長期投資の対象としては、タイヤ株の方が有望と判断。
  • ブリヂストンは好配当利回りの安定成長株として注目できるが、今期は原料の天然ゴム市況急騰の影響で、増益率が低い。

今日コメントするタイヤ・自動車株の主要6社株価バリュエーション:2月21日時点

(金額単位:円)

コード 銘柄名 21日株価 PER:倍 配当利回り 最低投資金額
5108 ブリヂストン 4,545.0 13 3.1% 454,500
5101 横浜ゴム 2,263.0 12 2.3% 226,300
5110 住友ゴム工業 1,859.0 15 3.0% 185,900
7203 トヨタ自動車 6,478.0 11 3.1% 647,800
7267 本田技研工業 3,596.0 12 2.6% 359,600
7201 日産自動車 1,116.5 8 4.3% 111,650

(注:最小投資金額は、最小投資単位100株購入に必要な金額。楽天証券経済研究所が作成)

(1)米景気敏感株に注目、トヨタ自動車よりブリヂストンの方が魅力的と考える理由

米景気に回復色が強まっていますが、トランプ大統領は、ここから大型減税や公共投資による景気刺激策を実施する方針です。もし公約通りの大型景気刺激策を実施すると、米景気が短期的に過熱するリスクもあります。

米国株は、米景気改善を素直に好感し、上昇が続いています。このような環境下、日本株でも、米景気敏感株(米好不況の影響が大きい日本企業)の業績・株価に上昇期待が高まっています。具体的には、自動車・タイヤ・電機・機械などで、米国向けの輸出比率や米国での事業比率が高い会社が注目されます。

今日は、自動車とタイヤの代表銘柄であるトヨタ自動車とブリヂストンの投資魅力を比較します。両社とも、2017年度は米景気好調の恩恵を受けて業績回復が期待されます。両社とも、2月21日終値で評価した予想配当利回りは3.1%あり、好配当利回り株として評価できます。

ただし、長期投資の対象として、私は、トヨタよりブリヂストンの方が良いと判断しています。自動車よりタイヤの方が、ディフェンシブ(業績が安定的)と考えているからです。

(2)トヨタよりブリヂストンの方がディフェンシブと考える理由

3つの理由があります。

ブリヂストンの方がトヨタより、新車販売変動の影響が小さい

自動車販売には好不況の波があり、トヨタの利益はその影響を受けて大きく変動します。ブリヂストンの業績も新車販売の影響を受けますが、その影響は、トヨタほど大きくはありません。

タイヤメーカーでは、更新タイヤ(取替え用のタイヤ)の利益率が、新車用タイヤより高く、更新タイヤが重要な収益源となっているからです。更新タイヤは、世界の自動車保有台数が拡大しているために、新興国を中心に安定的に成長しています。

トヨタは、米保護主義のターゲットとなりやすい

日本車にとって最も重要な市場である米国で、トランプ大統領が保護貿易主義を前面に出していることが、日本の自動車メーカーにとって重大なリスクとなっています。特に、日本の自動車産業を批判する発言が目立つことが気になります。

トランプ大統領による日本の自動車産業批判は、事実に基づかない部分が多いといえます。たとえば、日本の自動車が米国に大量に輸出される一方、米国の自動車が日本でほとんど売れないのは、「不公正な競争条件のため」とトランプ氏は主張していますが、この主張は、関税について言うならば、誤りです。

日本は、自動車の輸入に関税をかけていません。一方、米国は、自動車の輸入に2.5%の関税をかけています。トラック輸入には25%の高率関税をかけています。

ただ、米国が日本の自動車を叩き始めると、そこからは、理屈の通用しない世界に入ります。2009-10年に北米でトヨタ・バッシング(叩き)がヒートアップしたことがありました。トヨタ車に特に技術的な問題がなかったにもかかわらず、トヨタ車は急加速するので危険というバッシングが全米に広がり、トヨタは大規模な自主的リコールに追い込まれ、巨額の課徴金を支払わされました。

ブリヂストンも、バッシングの対象となるリスクがないとは言えません。ただし、今はそのリスクは低いと考えられます。ブリヂストンは、タイヤ世界首位で、日本車だけでなく、アメリカ車にも使われています。世界中の幅広いメーカーで使用されるタイヤであるため、日本車のようにターゲットとはなりにくいと考えられます。

ブリヂストンのタイヤは、高品質・高価格のものが多く、米国内で価格破壊を先導しているわけではありません。米国でたびたび問題になるのは、低価格の中国製タイヤの輸入が増えることです。今後、政治的にターゲットになるとしたら中国製タイヤの輸入で、米国生産比率の高い(輸入もある)ブリヂストン・タイヤはターゲットとなるリスクが低いと考えられます。

万一、米国が輸入タイヤに国境税をかける場合、中国タイヤが一番大きなダメージを受けると考えられます。ブリヂストンも、輸入タイヤではダメージを受けますが、安い中国タイヤの輸入が減ると、米国内でタイヤ価格が上昇しやすくなるので、米国内で生産するブリヂストン・タイヤには恩恵が及びます。

【参考】2009-10年の北米でのトヨタ・バッシングの背景

トヨタ・バッシングは、米国民の日本車への反感が作り出したものと思います。2005年ごろ、米自動車大手3社(GM・フォード・クライスラー)が経営危機に陥った時、日本の自動車大手3社(トヨタ・ホンダ・日産自)は米国で快調にシェアを拡大していました。その時、日本車を非難する声は表立って出ていませんでしたが、日本車への反感が静かに蓄積していたと思います。

トヨタは、北米での言いがかりのようなバッシングと戦わず、ひたすら低姿勢で陳謝を続け、大規模リコールを行い、巨額の制裁金支払いに応じました。そのうちに、米国内でトヨタ叩きの行き過ぎを非難する声も増え、トヨタ車の米国内での人気は回復しました。

ちなみに、2012年に中国で起こった大規模な反日デモでも、日本の自動車メーカーが不買運動のターゲットとなりました。日本から中国へ日用雑貨を輸出している企業はターゲットとなりにくかったのですが、自動車は目立つので、バッシングの対象となりました。

米国だけでなく、世界中に自国中心主義が拡大しています。保護貿易・貿易戦争が世界的に広がると、自動車は目立つので、とかくターゲットになりやすいと言えます。

次世代エコカーでハイブリッド車より電気自動車が優勢になりつつある

自動車用の蓄電池の性能が大幅に向上したため、電気自動車が1回の充電で走行できる距離が大幅に伸びました。それにより、次世代エコカーとして、電気自動車を優先する国が増えました。自動運転技術の進歩も、自動車の電装化、電気自動車の普及を後押しします。

次世代エコカーとして、ハイブリッド車を中心に推進してきたトヨタ・本田など、日本勢に逆風です。

現時点で議論するのは、まだ早すぎますが、遠い将来、ガソリン車が減り、電気自動車が主流になる時代が来ると想定すると、日本の自動車業界はダメージを受けます。ガソリン車に使われる内燃機関が不要になるリスクがあるからです。内燃機関を製造するための部品技術で優位にある、日本の自動車産業全体にマイナスとなります。

ただし、このリスクと、タイヤメーカーは無縁です。次世代自動車が何になろうと、タイヤが必要なことは変わらないからです。

(3)ブリヂストンの業績見通し:天然ゴム価格の急上昇が利益を圧迫

ブリヂストンの業績見通し

【金額単位:億円】

  2015年12月期 2016年12月期 2017年12月期
  実績 前年比 実績 前年比 会社予想 前年比
売上高 37,902 +3% 33,370 -12% 36,300 +9%
営業利益 5,172 +8% 4,495 -13% 4,520 +1%

(出所:同社決算資料)

ブリヂストンは、タイヤ世界市場の成長にともなって、安定的に成長が続いていました。2015年12月には営業最高益を更新しています。2016年12月期は、13%の営業減益ですが、円高による減益効果(営業利益で▲680億円)を除けば、微増益で営業最高益を更新していたはずでした。

2017年12月期は、会社では、1ドル110円を前提に、1%の営業増益を見込んでいます。増益率予想が低いのは、原料の天然ゴム価格が急騰していることによります。タイの洪水被害で天然ゴム価格が一時的に急騰していることが影響しています。

米国中心にタイヤ値上げが通る見込みであること、高付加価値の戦略タイヤの販売が増えることが増益要因となりますが、天然ゴムの短期的な値上がり率が大きいことが、今期の利益を抑えます。

天然ゴム(RSS3)先物(期近)推移:2013年1月末―2017年2月21日

ブリヂストンは、期初に保守的(低め)の予想を出す傾向が強く、今期の営業利益は、5%増益に上方修正される可能性があると考えています。

ただし、会社が示している今期増益率が低いので、短期的には株の上値は重いと考えられます。

ブリヂストンは、短期的な増益率が高いわけではありませんが、長期的に好配当利回りの安定成長株として、評価できます。

長期的な視点にたつと、自動車の保有台数の増加にしたがって、タイヤの世界市場は拡大していくので、ブリヂストンは、いずれ最高益を更新していくと予想しています。新車に装着する需要だけでなく、定期的に取り替えが必要になることから、新車販売が落ち込んだ時でも、安定的に成長が続いています。

タイヤ生産は規模のメリットが大きく、タイヤ世界首位【注】で、先に世界市場を押さえたブリヂストンの優位は簡単には揺らぎません。

【注】2015年のタイヤ世界シェア上位8社(出所:タイヤビジネス誌)

①15.0%ブリヂストン、②13.8%ミシュラン、③9.2%グッドイヤー、④6.7%コンチネンタル、⑤4.3%ピレリ、⑥3.8%住友ゴム、⑦3.3%ハンコック、⑧2.6%横浜ゴム

近年、中国メーカーが低価格タイヤで世界シェアを高めてきていることが脅威となっていますが、それでも自動車走行の安全にかかわるタイヤについては、価格だけで世界シェアが激変することはありません。ブリヂストン・ブランドは、安全性や耐久性など品質で高い評価を得ており、先進国では高い競争力を有しています。

【参考】ブリヂストンが世界トップ企業になるまでの苦悩

大型買収の正しい評価は、10年20年の長い年月を経てからでないと下せません。投資家やアナリストの評価は往々にして短期的で、大型買収の本質をわかっていないことが多いので要注意です。それをつくづく感じさせられるのが1988年のブリヂストンによる米ファイアストン買収です。世界企業として飛躍した今日のブリヂストンを見れば、この買収は大成功だったと結論づけることができます。ただし、その評価は二転三転しました。

買収直後の1988年~1992年、投資家・アナリストからは「割高な買収」と批判されました。イタリアのピレリ社と買収を競う形になったため、買収価格は当初予定より大幅に高くなりました。それに加え、買収直後に米GMがファイアストンからのタイヤ調達をやめる方針を発表したことや、ファイアストン工場の生産や品質管理に想定以上の問題があることが発覚したことが痛手になりました。ブリヂストンは歯をくいしばってファイアストンの立て直しに邁進しました。その成果でGMへの納入も再開し、ファイアストンは高収益会社に生まれ変わりました。1990年代にはブリヂストンの海外収益の柱として育ち「買収の好事例」としてアナリストから高く評価されました。

2000年に買収の評価が再び暗転しました。アメリカで「ファイアストン製のタイヤを装着したフォード車が横転事故を起こし多数の死傷者が出ている」との報道が出てから、ファイアストン・バッシングが始まったからです。事故原因が特定されていない中で、ブリヂストンはファイアストン製タイヤ1,440万本を自主回収しました。フォード社とは事故原因をめぐり訴訟になりました。この影響でブリヂストンは収益が悪化、株価も大きく下がり、「ブリヂストンはとんでもない会社を買収した」と批判されました。フォード車の事故については、最終的に「タイヤだけが原因ではない」との調査結果が出て、フォードとも和解し、ファイアストンは再び立ち直りました。長い苦労を経て、ファイアストンは今、ブリヂストンのグローバル戦略を支える要となっています。

買収で売られる株、買われる株の評価は、短期投資家の視点ではなく、会社とともに生きる超長期投資家の目で見ていかなければならないと、私は痛感しています。