買収がまだ確定したわけではない

 武田薬は当初、4月25日までに正式に買収提案をするか否か、決定するとしていました。ところが、資産査定などに時間を要することから、シャイアー社の同意のもとで、正式決定を5月8日まで延期しました。したがって、現時点で、買収が確定しているわけではありません。

 武田薬が出している最新の買収提案では、約7兆円の買収総額のうち、約54%を現金、56%を武田薬品の株式の割り当てによって、支払うとしています。その通り実行すると、買収完了後に、武田薬品の発行済株式総数の約50%をシャイアー社株主が握ることになります。

 

アナリストとしては、まだ投資判断できない

 シャイアー社は、稀少疾患の治療で世界トップクラスの強みを持つ安定高収益企業と、考えられます。買収が実現すれば、武田薬の国際展開力、重点分野(消化器・神経・オンコロジー領域)の強化、新薬パイプラインの拡大に、大いに寄与すると考えられます。

 ただし、どんな良い会社を買っても、買収価格が高すぎては、問題です。シャイアー社は、武田薬による買収検討の噂が出るまでは、時価総額4兆円(日本円換算)強で評価されていました。それを7兆円あまりかけて買うのは、高すぎる買い物ではないか、との見方もあります。

 別の見方では、7兆円でも割安な買い物と言えないこともありません。シャイアー社が、2017年10月期に、42.7億ドル(約4,650億円)の純利益を上げているからです。同水準の純利益を上げ続けることができると仮定するならば、買収価格7兆円でも、PER(株価収益率)で約15倍の評価となります。武田薬品の4月25日時点でのPER(株価を2018年3月期の会社予想ベース1株当たり利益で割って算出)が、23倍であることを考えると、巨額買収でも1株当たり利益の希薄化は起こらない可能性もあります。

 ただし、シャイアー社の詳しい内容については、武田薬も現在精査中で、まだわかりません。シャイアー社が本当に安定高収益企業なのか、現時点でわかりません。買収した後で、問題がぼろぼろ出てくることもあり得ます。情報不足なので、アナリストとしてはまだ、良い買収と明確に判断することはできません。

ファンドマネージャーとしては少し買ってみたい

 私は過去25年、日本株のファンドマネージャーをやっていました。ファンドマネージャーとしては、すべてが明らかになる前に、ここで武田薬を少しだけ買ってみたいと考えます。株価急落で、武田薬の配当利回りは4%【注】まで上昇しているからです。

【注】2018年3月期の1株当たり年間配当金(会社予想)180円を、4月25日の株価4,510円で割って算出

 今回の買収検討の話が出る前から、私は、武田薬を、好配当利回り株として、評価していました。既存大型薬の特許切れによる収益悪化局面をようやく脱し、これからM&Aやバイオ薬の強化で、収益を回復させていくと期待していたからです。

 もし、シャイアー買収が破談になれば、買収による財務悪化不安で売られた株価のリバウンドが期待されます。

 買収実行が正式に決まると、さらに株価が下がる可能性もあります。それでも、長い年月かけて、良い買収であったことが証明されれば、長期的には株価の上昇が見込まれます。

 現時点で、投資判断するのは、リスクが高すぎると言えますが、ファンドマネ-ジャーをやっていたときには、何もかもがわかる前に投資判断しなければならないことだらけでした。ファンドマネージャーとしては、少しだけ買ってみてもいいと、考えます。