イオンの投資判断は「買い」

 イオンは、総合小売業の勝ち組として成長していくビジネスモデルを完成させたと、私は考えています。上期は減益でしたが、長期的な成長余力を高めるための構造改革は着実に進捗していると判断します。10月11日株価3,618円にて、投資判断「買い」を継続します。

イオン株週足チャート:2020年1月2日~2024年10月11日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

今後の成長期待三つの柱

 イオンは、構造改革が進み、成長への期待が見えてきたと評価しています。筆者が期待する三つの成長の柱についてコメントします。

【1】イオンリテールの構造改革のさらなる進展、利益回復に期待

 イオングループは、金融(カード事業)、ディベロッパー(テナント収入)、ドラッグストア(ウエルシア)で高い利益をあげる一方、イオンリテールの総合スーパー、その他スーパー、低価格スーパー事業の利益率が低いことが、重大な構造問題として意識されてきました。

 イオンリテールは、収益性を高めるための構造改革を続けてきましたが、その成果が、前期に表れました。前期は、イオンの総合スーパー、その他スーパー、低価格スーパー事業の収益回復が大きく、営業利益の構成比が31%に達しました。

 今上期は、人件費・電気代・物流費などのコストアップに、売上総利益の拡大が追い付かず、減益となりますが、収益力を高めるための構造改革は着実に進んでおり、将来的にイオンリテールの利益回復・成長は続くと予想しています。金融・ディベロッパー・ドラッグストアに次ぐ、四つ目の成長の柱として期待しています。

(参考)イオン2025年2月期の上期事業セグメント別営業利益

出所:同社決算説明資料より作成
注:事業セグメントに「国際」があるが、これは小売業の海外利益だけ示す。総合金融・ディベロッパー・セグメントの中にも海外利益が含まれている

 セブン&アイ・ホールディングス(3382)傘下のスーパーストア「イトーヨーカ堂」の収益改善が遅れる中、イオンのスーパーストア事業の収益改善が顕著で、明暗が分かれました。

 イオンはグループ内にセブンイレブンのような巨大コンビニを持たないので、コンビニに喧嘩を売るようなビジネスを次々と立ち上げて成功させることができました。それが、小型スーパー「まいばすけっと」や、ドラッグストア「ウエルシア」などの成功につながっていると思います。

 また、小売業の競争力強化には、プライベートブランド(PB)強化が必須です。イオンは、食料品や衣料品で価値訴求型PBを立ち上げて成功させ、スーパーストア事業の粗利拡大に成功しています。セブン&アイHDもPB開発では大きな成果を出していますが、「セブンプレミアム」などコンビニのPB強化により大きな成果が出ています。

 イオンリテールは、価格訴求PBに加え、価値訴求PBを拡大することで、さらに利益を拡大していけると予想しています。旧ダイエーなど低採算店舗のさらなる構造改革も含めて、イオンリテールの今後の利益拡大に期待しています。

【2】ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパー事業での成長期待

 イオンの上期営業利益の75%を占めているのが、ヘルス&ウエルネス(ウエルシア中心のドラッグストア事業)・総合金融(カード・銀行事業)・ディベロッパー事業(テナント収入)です。この三つの柱を活用することで、総合小売業として生き残り、成長するビジネスモデルを確立したと判断しています。

 総合スーパーはかつて、専門店(ユニクロや無印良品、ABCマートなど)に押されて衰退していった時代がありました。それは過去の話。今は、郊外に作られたイオンの巨大なショッピングモールは、地域でもっとも競争力の高い小売業の一つになっています(セブン&アイHDの「セブンパーク」も同様に高い競争力を持つ)。

 イオンは、競争力の高い専門店はテナントとして積極的に取り込んでモールの魅力を高めるとともに、テナント料をとって稼ぐ形としています。テナントとして取り込まない専門店に対しては、プライベートブランド品を強化することで逆に反撃に出ています。

 イオンの巨大なショッピングモールで高収益を稼いでいるのは、イオンリテール(小売業)ではなく、総合金融(カード事業など)、ディベロッパー事業(テナント料)で高い利益をあげています。小売・金融・ディベロッパーの3事業を合わせて、競争力の高いショッピングモールを作って稼ぐビジネスモデルを、国内でも海外でも確立しています。

 モール外では、ドラッグストア「ウエルシア」が高収益を稼ぎ、調剤部門が利益成長に貢献しています。ドラッグストアの利益は、ヘルス&ウエルネス部門に含まれています。

 上半期は、ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパーの3部門で、イオンの営業利益の75%を稼いでいます。イオンリテールの収益が低くても、3事業を合わせて、高収益を実現しています。

 総合金融・ディベロッパー事業については、海外展開も含め、今後さらに成長余地があると考えています。

【3】アジアでの成長期待

 イオンのアジア事業は、日本と同様、コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)で一時大きなダメージを受けました。今は、日本と同様、リオープンが進む中で利益が回復しています。

 ただ利益が回復するだけではなく、売上収益の一段の成長が見えてきました。特にベトナム事業の成長加速が期待されます。ホーチミン・ハノイに加えて中部の中核都市フエに出店したことが、貢献すると考えられます。

(参考)イオン2025年2月期上期の地域別営業利益

出所:同社決算補足資料

 小売企業の海外利益構成比が3割を超えると、投資家の見る眼が変わります。海外で成長する小売企業として見られるようになります。イオンはまだ、ドメスティックな(国内中心の)小売業と見なされています。海外の利益がもっと拡大し、営業利益の3割以上を占めるようになれば、海外で成長する小売業と見られるようになると考えています。

 なお、上記の地域別利益は、イオンリテール(小売事業)だけでなく、総合金融・ディベロッパー(テナント収入)事業の利益を加えたトータルでの海外利益の構成比です。海外も国内と同様、小売事業だけでは収益性が高くないが、総合金融、ディベロッパー事業を加えて、収益性を高めるスタイルを確立しつつあります。