(5)資産寿命は、運用ではなく計画的取り崩しで延ばす

 報告書が明示的にそう言っている訳ではないが、「資産寿命を延ばすために、リスクを取った資産運用を行うといい」という金融機関の商品広告にありがちな構成に見える点は、誤解を生むかもしれない。

 将来の運用益をあてにして、お金を使い過ぎてはいけない。資産の寿命を延ばすための手段としては、余裕を持った計画的な取り崩しを割り当てるべきで、その点をわきまえておくことが重要だ。

 個人の場合は、運用が失敗したら不足を埋めてくれる、確定給付企業年金における母体企業のようなリスクバッファーを持っていない。従って、「運用利回りA%を仮定して、毎年資産のB%を取り崩す」といった、将来の運用益をあてにした支出を行うことは危険だ。

 一方、取れる範囲のリスクを取りながら、資産運用を行って資産を増やそうとすることは、それを有利だと思う人が行えばいいことで、他人が強制することではないし、運用には不確実性が伴う。ちなみに、筆者自身は、リスクを取って運用することが(手段が適切であれば)「有利な資産形成につながるだろう」と思っている。

 リスクを取った資産運用は資産の増加・形成のために、計画的な資産取り崩しは資産寿命を十分延ばすために、という手段の割り当てが正しい。