「社会人」「投資無関心者」へ投資教育を行う意義

 一般に、投資は興味がある人と無関心層に分かれます。興味がある人は、自ら情報を求めにいきますから、自己研さんをして学習することになります。

 実はこうした人たちは投資教育の世界ではあまり心配がありません(といっても、おかしな投資話にだまされたり、一部のアセットクラスにリスクを集中しすぎることがないように、基礎的リテラシー教育は必要ですが)。

 投資教育を幅広に考えたとき、もっとも難しいターゲットは「無関心層」です。もともと興味がないわけですから、自律的に情報収集をして学習をするはずがありません。

 確定拠出年金の投資教育は、「確定拠出年金の加入者になったら誰でも受講する」と位置づけたところに社会的意義がありました。自分から証券口座を開設しない人でも、投資教育を受けることになったからです。

 そして、もう一つ重要な視点は「社会人」向けの教育機会が設けられたことです。よく学生向けの金銭教育の重要性が指摘され、多くの学校ではカリキュラムに取り入れられたといわれますが、すでに社会人になった場合、教育機会の提供をどうするかは難問でした。

 20歳代から50歳代まで、社会人の「お金の基本の学び直し」の機会としても、確定拠出年金の投資教育は大きな意義があったわけです。

確定拠出年金加入者と非加入者には明らかなリテラシー差が生まれている

 投資教育を受講する機会のある確定拠出年金加入者(特に企業型)と、確定拠出年金に加入していない人のあいだでは、どれくらい金融リテラシーの差があるのでしょうか。

 フィデリティ・インスティテュート 退職・投資教育研究所の過去のデータ分析では、有意な差が認められています。

 たとえば、加入者と非加入者のあいだでは、証券口座の開設率が異なります。もちろん加入者のほうが高いわけです。

 長期・積立・分散投資のような基礎的な理解度も加入者のほうが高いスコアを示します。それだけではなく、実際の老後資産形成の金額でも明確な差が見られているのです。また、投資に対するイメージもポジティブなものとなっています。

 私が企業の確定拠出年金担当者と話をしていて興味深かったエピソードをあげると、「自己破産する社員が減った」というものがあります。

 消費者金融で借金を重ね、自己破産に陥ることは本人にとっても会社にとっても好ましいことではありません。しかし確定拠出年金の投資教育を通じて、「自分のお金を将来のために貯め、運用で増やし、備える」というお金の基本を理解する社員が増えたことは、刹那的な消費行動に一定の歯止めをかける力となっているのだと思います。