毎週金曜日夕方掲載

1.電子部品・半導体セクターが活況

今回は、電子部品・半導体セクターについて解説します。2017年3月期は、iPhone向けビジネスが2016年3月期よりは回復したものの、回復の程度が大きくなかったこと、円高デメリットが発生したことによって、多くの電子部品・半導体メーカーでは年度では大きな増益になりませんでした。

しかし、昨年年末から特に自動車向け電子部品、半導体が好調になりました。スマートフォン分野では、中国スマホ向け電子部品が重要な事業となり、今期に入ってゲーム向けも大きくなろうとしているなど、各分野で変化が見えるようになってきました。

そして、足元では国内外の多くの電子部品工場、半導体工場が活況になっており、工場稼働率が上昇しています。電子部品は毎年平均10%以上値下がりする製品が多いのですが、多くの電子部品工場の稼働率が90~100%になるに伴って、例年よりも価格下落率が低くなる部品が増えている模様です。これは、今期の電子部品各社の業績に好影響を与えると思われます。また、為替レートは1ドル=109~110円になっており、今のところ大きな円高になっていません。

2017年3月期4Qまでの各社の業績を見ると(グラフ1、2)、順調に成長している会社ばかりではありませんが、2018年3月期1Q決算から変化が確認できる会社が増えそうです。

ここでは、スマートフォン向け、自動車向け、ゲーム向けの3つの事業分野について電子部品・半導体各社の動きを見ていきます。

グラフ1 電子部品各社の四半期営業利益

(単位:億円、四半期ベース、会社資料より楽天証券作成、注:TDKの2017/3期4Qはクアルコムとの合弁会社持分売却益を除いたもの)

グラフ2 半導体各社の四半期営業利益

(単位:億円、四半期ベース、会社資料より楽天証券作成)

2.新型iPhone向けビジネスが始まりつつある

今年秋~冬の発売が予想される新型iPhoneは、現行のiPhone7の後継機という位置付けのiPhone7s(4.7インチ液晶パネル)、7sPlus(5.5インチ液晶パネル)と、全くの新型で5.8インチ有機ELディスプレイ搭載のiPhone8の3タイプと言われています。この3タイプの新型iPhoneが発売されるという見方が今のスマートフォン業界の主流になっています。「7s」「7sPlus」は9月発売が予想されていますが、「8」は有機ELディスプレイの調達が遅れるため、1~2ヶ月遅れて10~11月発売になるとも言われています。

グラフ3 iPhone販売台数

(単位:万台、出所:アップル社資料より楽天証券作成)

表1 スマートフォンメーカー上位5社の出荷数量と市場シェア

表2 スマートフォンに搭載される電子部品の個数

アップルはiPhone8に大きな期待を持っていると言われています。次期iPhoneで最も重要な「8」の有機ELディスプレイは韓国サムスン電子が受注しており、2017年中に8,000万台分をiPhone8向けに出荷する計画と言われています。既に量産に取り掛かっている模様です。

電子部品メーカー、ディスプレイ関連材料メーカーは顧客の名前を言いませんが、コンデンサ、SAWデバイス、WiFiモジュールなどの一般電子部品、通信系部品、通信モジュールは村田製作所、TDKなどの大手が納入すると思われます。ただし、村田製作所の場合、用途別売上高の通信向け(主にスマホ向け)が伸び悩んでいることを見ると(グラフ7)、市場シェアが低下している部品があると思われるため、今期についてはスマホ向けが順調に伸びるかどうか不透明な部分もあります。

デュアルカメラ化で重要性が増しているカメラについては、スマホカメラ用アクチュエーター(オートフォーカス用、手振れ補正用)で世界シェア70~80%のアルプス電気、高級イメージセンサで世界シェアトップのソニーが重要です。2016年9月発売の「7」「7Plus」では、「7Plus」のみがデュアルカメラでしたが、次期iPhoneでは、「7sPlus」「8」がデュアルカメラになると言われています。iPhone市場の中でデュアルカメラ比率が上昇することになります。

また、iPhoneだけでなく、多くのスマホメーカーが有機ELディスプレイの搭載を希望していると言われています。有機ELディスプレイ用材料、部品を生産しているのが、日東電工(ITOフィルム、フォースタッチセンサ、光学粘着テープ、偏向板、それらの材料など)、住友化学(偏向板)、日本写真印刷(静電容量方式タッチセンサ)です。特に日東電工は、有機ELディスプレイにつかう材料の多くとその原材料(中間材料)を生産しています。有機ELディスプレイの普及は同社の今後の業績に寄与すると思われます。

ただし、次期iPhoneの問題点も指摘されています。アップルが調達する通信モデルに問題があるため、競合する高級スマホに比べて通信速度が遅くなる可能性があるというのです。実際にそうなら、特にiPhone8の売れ行きに影響が出る可能性があります。

スマートフォン市場の中でも、特に高級機市場では、相変わらずiPhoneがトップブランドですが、サムスンも良い機種を出しています。ファーウェイなどの中国スマホも追随しています。スマホ向け電子部品では、村田製作所のように幅広い顧客層を持っている電子部品メーカー、アルプス電気のように成長分野の重要部品の市場シェアが高い会社を選びたいと思います。

ちなみに、世界最大の半導体受託製造業者TSMC(iPhoneのCPUを生産している)の5月売上高は4月比28.0%増と急回復しました。4月はスマホとPCの在庫調整のため前年比14.9%減でしたが、5月は前年比1.1%減まで減収率が縮小しました。かなり在庫整理が進展したと思われます。そして、スマートフォンビジネスが秋商戦に向けてスタートしつつあると思われます。