4.ニンテンドースイッチ増産で恩恵を受ける電子部品・半導体メーカー

今のゲーム市場での最大の話題は、ニンテンドースイッチです。スイッチ用ソフトのラインナップが強力で、全世界でハードの品不足が深刻になっています。そこで今期の注目点は、任天堂のスイッチ・ハード今期販売台数予想1,000万台に対してどれだけ増産できるかです。

スイッチ・ハードは特殊な電子部品をほとんど使っていないと思われます。CPUはエヌビディアのTERGAプロセッサのカスタマイズですが、各種分解記事によると1世代前の「TEGRA X1」のカスタマイズと思われます。量産が難しいとは思えません。他の部品も一般的な部品が多く、急速な増産にも対応できると思われます。

ただし、ハードの生産は少し時間がかかる可能性があります。ホシデンとミネベアミツミの2社がスイッチ・ハードの生産を請け負っていると言われていますが(前述のように、電子部品会社は顧客についてコメントしません)、増産する場合は、海外生産拠点で従業員を増やして一定の期間教育する必要があります。最終的には増産できると思われますが、従業員の手配と訓練に一定の時間と費用がかかると思われます。

ニンテンドースイッチ関連の部品会社と言われている会社は以下の通りです。多くの会社が顧客名をコメントせず、任天堂もほとんどの部品会社名を公表しないため、分解記事を含む各種報道によるものです。

ホシデン、ミネベアミツミ:ハード受託生産と一般電子部品の供給。

ローム:電源IC、ROM(ゲームカートリッジに使う読出し専用不揮発性メモリ、子会社のラピスセミコンダクタが製造販売)など。

アルプス電気:Joy-Con(コントローラー)に内蔵されている触覚デバイスなど。

日本写真印刷:本体ディスプレイの静電容量方式タッチセンサーなど。

ジャパンディスプレイ:本体ディスプレイはジャパンディスプレイ製と言われている。

ACCESS:スイッチに「NetFront Browser NX」が採用された。

なお、一般論ですが、このような受託生産や部品供給の今期計画は、発注元(任天堂)の計画がベースになります。即ち、各社とも今期の期初業績予想は、スイッチ・ハード1,000万台を前提していると思われます。従って、増産が実現すれば、各社共に業績の上方修正要因が発生することになります。私は、スイッチ・ハードの今期販売台数を任天堂予想1,000万台に対して1,500万台と予想していますので、スイッチの影響が大きい会社ほど上方修正幅が大きくなると思われます。

私の予想では、スイッチの単年度販売台数は、2017年3月期274万台から2018年3月期1,500万台(会社予想は1,000万台)、2020年3月期は2,500万台に増加します。スイッチ関連企業への恩恵は短期間で終わるものではないと思われます。

グラフ6 ニンテンドースイッチ:ハード販売台数予想

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

5.注目銘柄

今回は村田製作所、アルプス電気、ホシデン、ローム、日東電工を取り上げました。

村田製作所

  • 1.電子機器に多用されるチップ積層セラミックコンデンサの世界最大手です。SAWフィルタ(電波のノイズを取り除いて特定の周波数の電波のみを取り出す。スマートフォンに多く使われる)をはじめとした通信系電子部品に強いですが、品揃えは多岐にわたっており、総合電子部品メーカーです。従って、今のようにスマートフォン、自動車、ゲームなど様々な分野で電子部品需要が増えている場合は、その需要の多くを獲得することが出来ると思われます。
  • 2.2017年後半から中国で5G(第5世代移動体通信、今の4Gの100倍の伝送速度になる)のインフラ投資(基地局投資)が始まると言われています。そして、2018年からIoT用通信などの業務用から5Gの運用が始まると見られています。日本でもNTTドコモが2020年からのサービス開始を目指しています。通信系電子部品に強い村田製作所にとって、5Gは中長期での業績の牽引役になると思われます。
  • 3.今期は10%台の利益成長と思われますが、来期はより大きい利益成長が期待されます。中長期で投資を考えたい銘柄です。18,000~20,000円の株価レンジが当面の目標になると思われます。

表6 村田製作所の業績

グラフ7 村田製作所の用途別売上高

(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ8 村田製作所の製品別売上高

(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

アルプス電気

  • 1.スマホカメラ用アクチュエーター(絞り機構)で世界シェア70~80%の会社です。ソニーと並んでスマホカメラの高性能化に関連する重要銘柄です。中国スマホでもデュアルカメラ化が進むと思われます。スマホ向けセンサー、ゲーム機向け部品も拡大しています。自動車向け事業の採算改善が課題です。
  • 2.会社側は今下期を控えめに予想しており、上方修正の可能性があります。アルプス電気も中長期で投資を考えたい銘柄です。幅はありますが、3,500~4,000円の株価レンジが当面の目標になると思われます。

表7 アルプス電気の業績

ホシデン

  • 1.2017年3月期売上高1,501億円(前年比7.2%増)の中身は、アミューズメント551億円(10.6%増)、移動体通信514億円(6.6%増)、輸送機器322億円(19.3%増)です。2016年3月期から自動車向けが好調で、車載用ハンズフリーマイク、表示用部品(カーナビ、カーオーディオ用タッチパネルなど)などが伸びています。今期も引き続き自動車向けが伸びる見込みであり、業績にも貢献している模様です。
  • 2.2018年3月期会社予想売上高2,030億円(前年比35.3%増)のうち、アミューズメントが1,030億円(86.9%増)と大きく伸びる予想になっています。会社側は顧客に関してコメントしませんが、任天堂向けにゲーム機の受託生産(スイッチと3DSか)と一般電子部品の販売を行っていると言われています。上述のように、会社予想は任天堂予想に基いていると思われますので、上方修正の可能性があります。
  • 3.好業績が続くと思われます。幅はありますが、1,500~2,000円が当面の目標株価レンジになると思われます。

表8 ホシデンの業績

ローム

  • 1.もともと日本のデジタル家電向けが強い半導体メーカーでしたが、この分野が衰退するに従って、スマートフォン、自動車、産業機械向けに転換してきました。2004年3月期の売上構成比は、日系デジタル家電(テレビ、携帯電話、カメラ向けなど)36%、その他の日系民生(事務機、アミューズメント(ゲーム)向けなど)20%、海外民生28%、産機5%、車載11%でしたが、2018年3月期会社計画では、日系デジタル家電8%、その他の日系民生21%、海外民生(スマートフォン、エアコン向けなど)27%、産機(FA、エネルギー分野向けなど)12%、車載32%となっています。
  • 2.売上構成を転換する過程で業績が悪化した時期がありましたが、今は立ち直って再成長に向かっています。業種を問わずパワー半導体(電力制御用半導体など)が得意ですが、車載用半導体でも電源周りの半導体が得意です。PHV、EVの生産が増加すると、この分野も増加すると思われます。また、今は小さいですが、ADAS向け半導体の増加を会社側は予想しています。
  • 3.2018年3月期会社予想売上高は3,680億円(前年比4.5%増)で、このうち上期は1,870億円(8.8%増)ですが、会社側公表数字によれば、2017年4月売上高は前年比10~15%増、5月は15~20%増となっています。国内向けが好調ですが、これは車載用、産機用の伸びによると思われます。アジア向けも持ち直しており、スマートフォン向けの回復が期待できそうです。会社前提為替レートの1ドル=105円よりも円安になっていることもあり、今期会社予想は上方修正の可能性があります。
  • 4.自動運転、電気自動車向けにゲーム向けの拡大などが加わり、来期も業績好調が予想されます。当面は、9,000~10,000円の株価レンジが期待されます。

表9 ロームの業績

日東電工

  • 1.液晶向けの偏向板ではトップシェアです。有機EL向けでは、ITOフィルム、フォースタッチセンサ、光学粘着テープ、偏向板、それらの材料などを生産販売しています。有機EL用偏向板では、顧客によっては競合の住友化学が優位になる場合もある模様ですが、ITOフォルム、フォースタッチセンサとその中間材料を含めると、有機EL用材料で大きな存在感がある会社です。有機ELディスプレイの普及は当社の業績に寄与すると思われます。
  • 2.2017年3月期営業利益926億円(前年比9.6%減)の中に、肝硬変治療薬などの開発パイプラインをブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)に導出(グローバル独占ライセンス契約を締結)したことに伴う契約一時金1億ドル(約106億円)が含まれています。これを除くと前期は20%営業減益となります。上期まで続いた高級スマホの落ち込みを通期で取り戻せませんでした。
    一方、会社予想では今期営業利益は1,000億円になります(核酸医薬品関連のマイルストン等は見込んでいない)。前期の契約一時金を除くと前年比22%営業増益になる見込みです。有機ELディスプレイ向けが本格化すると予想されます。
  • 3.当社はスマホ向けディスプレイ材料の大手であると同時に、次世代の新薬開発分野である核酸医薬品の開発と受託生産(試薬の受託生産)の会社でもあります。
    スマホ向けは有機EL用材料への転換が進んでおり、今期から成果が期待されます。
    核酸医薬品は、低コストで化学合成できるため、世界中で盛んに研究開発されています。当社が開発しBMSへ導出した肝硬変治療薬プロジェクトは、今期中にフェーズⅡbに進み、うまく行けば2~3年でフェーズⅢに進めると思われます。試薬の受託生産も能力増強を行っています。

日東電工にも中長期での投資妙味を感じます。

表10 日東電工の業績