なぜ日銀が利上げするときはいつも米景気が怪しくなるのか?

 米国では2022年3月に利上げが開始され、2年半がたとうとしています。金融政策は1年半から2年で景気に最も効果が表れます。今回は新型コロナ対策による余剰貯蓄、人手不足の長期化、住宅ローンの大半が固定金利の契約だったことなどが影響し、米景気は依然堅調を持続していますが、雇用統計はそろそろ景気悪化の兆候を示し始めています。

 日本銀行の引き締めはFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げから1~2年遅れるのがいつものパターンです。1999年6月にFRBが利上げを開始した1年2カ月後の2000年8月、日銀はゼロ金利を解除し、利上げしました。2004年6月にFRBが利上げを開始した1年9カ月後の2006年3月に日銀は量的緩和を解除し、2年1カ月後の7月に利上げしました。

 今回も、日銀がマイナス金利を解除したのは、2022年3月にFRBが利上げを開始してからちょうど2年後の2024年3月でした。日銀の金融引き締めがいつも米国経済の不確実性の高まりの中で行われるのは、ある意味日銀の宿痾(しゅくあ)と言えるかもしれません。

 つまり、日銀にとって最大のリスクは、国内経済ではなく、米国経済ということになります。国内経済は、いくつかのデータや過去の経験則に照らすと強い、もしくはこれから強くなると見込まれます。なぜそう考えるのか、以下で簡単に見ていきましょう。

強かった2024年4-6月期の実質GDPと2024年度見通しの本当の強さ

 日本経済が強いとみる理由の一つ目はGDP(国内総生産)です。8月15日に内閣府が公表した2024年4-6月期の実質GDP(1次速報値)は前期比0.8%(前期比年率3.1%)と、予想を上回る強い結果となりました。心配された消費も前期比1.0%と5四半期ぶりの増加となっています。

 大きな流れを見るために、実質と名目のGDPの前年比を確認すると(図表1)、実質GDPはまだマイナス0.8%ですが、強かった前年の裏という面もあり、7-9月期からはプラスに転じることが見込まれます。名目GDPは2.1%と引き続きプラスを維持しています。

図表1 日本のGDP

注:シャドーは日本の景気後退期。
出所:内閣府、楽天証券経済研究所作成

 4-6月期の結果が出たことを受け、筆者は2024年度の実質GDP成長率見通しを前年比0.7%に修正しました。数字自体はさほど強くないように見えますが、実はそうではありません。なぜなら「ゲタ」がマイナス0.7%だからです(ゲタの詳細は7月3日配信「日銀にまた逆風~「ゲタ」に変化、7月「展望レポート」24年度成長率見通しは下振れ必至 ~」を参照)。

 すなわち、2024年1-3月期が前期比年率マイナス2.3%となり、2024年度がマイナス0.7%という低い発射台からのスタートとなったため、実勢を見るにはこのゲタを除いた伸び率を見る必要があります。これを風速と言いますが、2024年度の風速は1.4%(見通しの0.7%からゲタのマイナス0.7%を差し引いた値)であり、かなり強いことが分かります。