高配当株、株価下落に伴って利回り妙味も拡大へ

 株式市場の大幅な調整に伴って、多くの銘柄で配当利回り妙味も高まる状況となっています。とりわけ、今年からの新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)開始に伴い、年明け以降の高配当利回り銘柄は相対的に上昇しやすい傾向が強まるとみられるため、インカムゲイン(配当など)のみならずキャピタルゲイン(売却差益)も狙いやすくなっています。

 今回の短期的な株価下落がオーバーシュートと考えれば、現在は、来年前半に向けた高配当利回り銘柄の格好の押し目買い局面とも考えられるでしょう。

 主力の高配当利回り銘柄の中から、直近で全体相場同様に株価が下落し、一段と利回り妙味が高まった銘柄に注目したいところです。ただ、円相場の水準が大きく訂正されたことで、輸出関連銘柄は今後の収益水準のコンセンサス(市場関係者の平均的な見通し)が切り下がってくる可能性もあります。投資対象としては内需系セクターを中心に考えるべき局面ともいえるでしょう。

(表)株価下落で利回り妙味の内需関連銘柄

コード 銘柄名 配当利回り
(%)
8月9日終値
(円)
時価総額
(億円)
前期ROE
(%)
騰落率
(%)
5411 JFEホールディングス 5.97 1,842.5 11,321 8.6 ▲21.6
8725 MS&ADホールディングス 4.81 3,013.0 48,455 9.8 ▲22.0
4183 三井化学 4.67 3,211.0 6,574 6.1 ▲27.4
8601 大和証券グループ本社 4.55 967.9 15,190 8.3 ▲25.0
9107 川崎汽船 4.45 1,910.0 13,651 6.7 ▲23.4
注:騰落率は7月11日終値比

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが4.4%以上(8月9日現在)
  2. 時価総額が5,000億円以上
  3. 7月11日終値比での株価下落率が20%以上
  4. 輸出関連セクター(輸送用機器、電気機器、精密機器、機械、ゴム製品)除く

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 JFEホールディングス(5411・東証プライム)

 2002年9月に川崎製鉄とNKKが経営統合して発足した持株会社です。粗鋼生産で国内第2位のJFEスチールを筆頭に、JFEエンジニアリング、JFE商事などを傘下に抱えます。2023年9月に京浜地区の高炉操業を停止し、現在は東日本製鉄所、西日本製鉄所で高炉6基を稼働しています。国内ユーザーの3割超は自動車業界向けとなります。

 国内トップクラスの建造能力を持つジャパン マリンユナイテッドは、持分法適用会社です。電動車のモーターに使用される高級電磁鋼板の供給体制拡大などに注力しています。

 2025年3月期第1四半期事業利益は569億円で前年同期比32.9%減となっています。棚卸資産評価差を除いたベースでは619億円で同18.3%減でした。粗鋼生産量が減少したほか海外市況の影響でスプレッド(鋼材価格と原材料価格の差)が悪化しました。

 また、グループ会社の収益も悪化しています。2025年3月期通期事業利益は従来予想の3,000億円から2,600億円、前期比12.8%減に下方修正しています。それにより粗鋼生産量の前提を2,340万トンから2,300万トン程度に引き下げています。自動車向けの下振れを見込むようです。

 なお、自動車向け数量回復や高付加価値品販売拡大、インドでのグループ会社収益改善などで下半期は収益回復を想定しています。

 年間配当金は前期比10円増の110円計画を据え置いており、配当性向30%程度の配当方針に沿ったものとなっています。次期の第8次中期経営計画発表は2024年度末に予定されており、ここで一段の還元強化などが示されればポジティブな反応が強まりそうです。

 中期的には洋上風力発電、水素など新エネルギー分野での展開力などが注目されます。日本製鉄(5401)神戸製鋼所(5406)などとの比較では、PBR(株価純資産倍率)なども含めて株価の割安感が強い状況にもあります。

2 MS&ADホールディングス(8725・東証プライム)

 三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険を傘下とする国内トップの損害保険会社です。自動車保険、自賠責保険、火災保険など主要種目で国内シェアナンバーワンとなっています。海外損保事業においてもASEAN(東南アジア諸国連合)地域でトップの実績です。

 トヨタ、三井、住友、日本生命など日本有数の企業グループを通じた強固な収益基盤が強みです。個人向け自動車保険を通信販売する三井ダイレクト損害保険も傘下です。また、三井住友海上あいおい生命保険、三井住友海上プライマリー生命保険などで展開する生保事業も育成しています。

 2025年3月期第1四半期純利益は2,042億円で前年同期比83.0%増となっています。国内損保事業において、利配収入の増加に加えて政策株式の売却が順調に進んだことなどで、資産運用損益が増加しました。海外事業も、トップラインが好調なロイズ・再保険をはじめ各セグメントが増益になっています。

 2025年3月期通期純利益は6,100億円、前期比65.2%増を据え置いています。国内生保、ならびに海外事業は第1四半期で高い進捗(しんちょく)となっているほか、国内損保は進捗率24%にとどまっていますが、想定は上回って推移しているようです。

 年間配当金は145円を計画しており、株式分割を考慮すると前期比で55円の増配となります。12期連続での増配計画となっています。同社では株主還元方針として、グループ修正利益の50%を基本として配当および自己株式の取得で還元するとしています。配当金に関しては、前年実績を下回らない累進配当の形をとっています。

 また、同社では政策保有株式の2029年度末残高ゼロを目標としていますが、政策株式売却加速分は特別配当という形で還元を行うともしています。当面は株主還元に手厚い状況が続くと予想されます。