日経平均は上昇・下落幅ともに過去最高更新、歴史的波乱局面に

 直近1カ月(7月12日~8月9日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで15.0%の下落となりました。8月2日には2,216円安と過去2番目(現在3番目)の下げ幅となり、翌営業日の5日には4,451円安と史上最大の下げ幅(下落率でも第2位)を記録しました。

 ただ、6日には一転して3,217円高と史上最大の上げ幅(上昇率でも第2位)となるなど、この期間は歴史的な波乱局面になったといえるでしょう。ちなみに、7月11日高値4万2,426円から8月5日安値3万1,156円までの下落率は26.6%となりました。なお、この期間(7月12日~8月9日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は1.5%の下落となっています。

 日経平均は8月1、2日・5日の3営業日で7,643円安となっていますが、サプライズ(驚き)となったのは日本銀行のタカ派姿勢です。日銀は7月31日に0.25%の政策金利引き上げを発表しました。

 大半の市場参加者は、今回の会合において利上げは見送られるとみていました。利上げアナウンス直後は、当面の悪材料が出尽くした感も強まって、日経平均は値を上げる形となりましたが、その後の植田和男総裁会見ではさらなる利上げに前向きな姿勢が示され、翌日以降の株価下落につながりました。

 一方、追い打ちをかけたのが米国の景気後退懸念です。1日に発表されたISM(サプライマネジメント協会)製造業景気期待指数、2日に発表された雇用統計がそろって市場の見通しを下回り、急速に景気の先行き懸念が台頭しました。

 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は利下げペースの拡大を迫られるとの見方も強まり、日米の金利差縮小をにらんで為替市場でもドル安・円高の動きが加速し、7月29日に1ドル=154円程度であったドル/円は8月5日には141円台まで下落しました。

 なお、その後は、日銀がハト派姿勢へと転換を見せたこと、過度な米国の景気後退懸念が減退したことから、相場は落ち着きを取り戻しつつあります。

 この期間で下げが目立った銘柄は半導体関連となります。東京精密(7729)TOWA(6315)KOKUSAI ELECTRIC(6525)SUMCO(3436)SCREENホールディングス(7735)イビデン(4062)ディスコ(6146)ルネサスエレクトロニクス(6723)などが軒並み30%以上の下落となりました。

 リード役となるエヌビディア(NVDA)が下落トレンド入りしてSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)も下落する中、2024年4-6月期の決算発表なども売り材料視されるものが多くなりました。半導体株下落に伴う英アームの株価下落で、ソフトバンクグループ(9984)もきつい下げとなりました。

 円高の進行をマイナス視してSUBARU(7270)マツダ(7261)日産自動車(7201)などの自動車株や三越伊勢丹ホールディングス(3099)などのインバウンド関連株も売られました。

 一方、資生堂(4911)ダイキン工業(6367)は決算がネガティブサプライズとなりました。半面、ニトリホールディングス(9843)MonotaRO(3064)などの、円高がメリットになるとされる銘柄群が上昇。JVCケンウッド(6632)TOTO(5332)ニチレイ(2871)などは決算が好感されました。

 富士ソフト(9749)デサント(8114)はTOB(株式公開買い付け)が発表され、トレンドマイクロ(4704)にもM&A(買収や合併)観測報道が伝わりました。

米利下げ期待を支えに株式市場は緩やかなリバウンド局面続く

 日経平均は8月9日現在、7月11日高値からの下げ幅の戻り率は34%ほどの水準です。目先は、需給波乱に対する警戒感の後退とともに、株価急落後のリバウンドの動きを強めていくものと考えます。今回の株価急落を受けて、日銀のタカ派姿勢は当面封印される可能性が高いとみられます。

 急速な円安進行が完全に一服する状況下、自民党総裁選を控えた政府サイドからの利上げのプレッシャーも大きく後退しそうです。米国に関しても、過度な利下げペースの加速期待は後退していくでしょうが、9月の利下げ実施の可能性は高く、株式市場の下支え要因となりそうです。

 さらに、円売りポジションの急速な巻き戻しの動きも一巡したとみられることで、為替相場も今後は落ち着いたものとなっていきそうです。市場ムードを左右する半導体関連株も、リード役となるエヌビディア(NVDA)株が心理的な節目となる100ドル割れで今後は押し目買い意欲なども強まるものとみられます。

 目先の注目イベントとしては、8月19日からの米大統領選民主党大会の開催、21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録、22~24日に開催される経済シンポジウム・ジャクソンホール会議などが挙げられます。FOMC議事録やジャクソンホール会議は、米国の金融政策に対する期待感へとつながっていく見通しです。

 また、民主党大会開催によって、あらためて米大統領選への関心が高まるとみられます。また、9月10日には大統領候補によるテレビ討論会も行われるもようです。

 民主党の候補だったバイデン大統領の選挙戦撤退に伴い、その後継となったハリス氏が共和党候補のトランプ前大統領に急追していると伝えられる中で、トランプラリー再燃を期待する動きは目先では控えられそうですが、今後の情勢急変も想定されるため、トランプ関連銘柄の動向には引き続き注視が必要となるでしょう。

 そのほか、短期的には半導体製造装置最大手のアプライド・マテリアルズ(AMAT)の決算発表が15日に予定されており、半導体株反発のきっかけにつながるか注目されます。

 国内では4-6月期の決算発表が一巡しました。株式市場が大波乱となる中での決算発表だったこともあり、決算評価がストレートに反映されていない銘柄も多いとみられ、決算発表一巡のタイミングでは、あらためて好決算銘柄に注目する必要もあるでしょう。

 一方、注意したいのは為替の変動が今後の業績に与える影響と言えます。6月末と9月末ではドル円のレートが大きく異なり、とりわけ、海外子会社の利益の円換算時に影響を受けることになります。海外子会社と親会社の決算期が同じ企業(四半期ずれの企業が多い)は第2四半期から利益貢献度合いが変わってくることになります。

 そのため、目先的には輸出関連銘柄よりも内需関連銘柄に買い安心感が強い状況と考えられます。そのほか、今回の決算ではスタンダード企業を含め、連結子会社の完全子会社化などのグループ再編の動きが目立っています。親子上場解消の動きは中間決算発表に向けても強まる可能性がありそうです。

高配当株、株価下落に伴って利回り妙味も拡大へ

 株式市場の大幅な調整に伴って、多くの銘柄で配当利回り妙味も高まる状況となっています。とりわけ、今年からの新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)開始に伴い、年明け以降の高配当利回り銘柄は相対的に上昇しやすい傾向が強まるとみられるため、インカムゲイン(配当など)のみならずキャピタルゲイン(売却差益)も狙いやすくなっています。

 今回の短期的な株価下落がオーバーシュートと考えれば、現在は、来年前半に向けた高配当利回り銘柄の格好の押し目買い局面とも考えられるでしょう。

 主力の高配当利回り銘柄の中から、直近で全体相場同様に株価が下落し、一段と利回り妙味が高まった銘柄に注目したいところです。ただ、円相場の水準が大きく訂正されたことで、輸出関連銘柄は今後の収益水準のコンセンサス(市場関係者の平均的な見通し)が切り下がってくる可能性もあります。投資対象としては内需系セクターを中心に考えるべき局面ともいえるでしょう。

(表)株価下落で利回り妙味の内需関連銘柄

コード 銘柄名 配当利回り
(%)
8月9日終値
(円)
時価総額
(億円)
前期ROE
(%)
騰落率
(%)
5411 JFEホールディングス 5.97 1,842.5 11,321 8.6 ▲21.6
8725 MS&ADホールディングス 4.81 3,013.0 48,455 9.8 ▲22.0
4183 三井化学 4.67 3,211.0 6,574 6.1 ▲27.4
8601 大和証券グループ本社 4.55 967.9 15,190 8.3 ▲25.0
9107 川崎汽船 4.45 1,910.0 13,651 6.7 ▲23.4
注:騰落率は7月11日終値比

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが4.4%以上(8月9日現在)
  2. 時価総額が5,000億円以上
  3. 7月11日終値比での株価下落率が20%以上
  4. 輸出関連セクター(輸送用機器、電気機器、精密機器、機械、ゴム製品)除く

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 JFEホールディングス(5411・東証プライム)

 2002年9月に川崎製鉄とNKKが経営統合して発足した持株会社です。粗鋼生産で国内第2位のJFEスチールを筆頭に、JFEエンジニアリング、JFE商事などを傘下に抱えます。2023年9月に京浜地区の高炉操業を停止し、現在は東日本製鉄所、西日本製鉄所で高炉6基を稼働しています。国内ユーザーの3割超は自動車業界向けとなります。

 国内トップクラスの建造能力を持つジャパン マリンユナイテッドは、持分法適用会社です。電動車のモーターに使用される高級電磁鋼板の供給体制拡大などに注力しています。

 2025年3月期第1四半期事業利益は569億円で前年同期比32.9%減となっています。棚卸資産評価差を除いたベースでは619億円で同18.3%減でした。粗鋼生産量が減少したほか海外市況の影響でスプレッド(鋼材価格と原材料価格の差)が悪化しました。

 また、グループ会社の収益も悪化しています。2025年3月期通期事業利益は従来予想の3,000億円から2,600億円、前期比12.8%減に下方修正しています。それにより粗鋼生産量の前提を2,340万トンから2,300万トン程度に引き下げています。自動車向けの下振れを見込むようです。

 なお、自動車向け数量回復や高付加価値品販売拡大、インドでのグループ会社収益改善などで下半期は収益回復を想定しています。

 年間配当金は前期比10円増の110円計画を据え置いており、配当性向30%程度の配当方針に沿ったものとなっています。次期の第8次中期経営計画発表は2024年度末に予定されており、ここで一段の還元強化などが示されればポジティブな反応が強まりそうです。

 中期的には洋上風力発電、水素など新エネルギー分野での展開力などが注目されます。日本製鉄(5401)神戸製鋼所(5406)などとの比較では、PBR(株価純資産倍率)なども含めて株価の割安感が強い状況にもあります。

2 MS&ADホールディングス(8725・東証プライム)

 三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険を傘下とする国内トップの損害保険会社です。自動車保険、自賠責保険、火災保険など主要種目で国内シェアナンバーワンとなっています。海外損保事業においてもASEAN(東南アジア諸国連合)地域でトップの実績です。

 トヨタ、三井、住友、日本生命など日本有数の企業グループを通じた強固な収益基盤が強みです。個人向け自動車保険を通信販売する三井ダイレクト損害保険も傘下です。また、三井住友海上あいおい生命保険、三井住友海上プライマリー生命保険などで展開する生保事業も育成しています。

 2025年3月期第1四半期純利益は2,042億円で前年同期比83.0%増となっています。国内損保事業において、利配収入の増加に加えて政策株式の売却が順調に進んだことなどで、資産運用損益が増加しました。海外事業も、トップラインが好調なロイズ・再保険をはじめ各セグメントが増益になっています。

 2025年3月期通期純利益は6,100億円、前期比65.2%増を据え置いています。国内生保、ならびに海外事業は第1四半期で高い進捗(しんちょく)となっているほか、国内損保は進捗率24%にとどまっていますが、想定は上回って推移しているようです。

 年間配当金は145円を計画しており、株式分割を考慮すると前期比で55円の増配となります。12期連続での増配計画となっています。同社では株主還元方針として、グループ修正利益の50%を基本として配当および自己株式の取得で還元するとしています。配当金に関しては、前年実績を下回らない累進配当の形をとっています。

 また、同社では政策保有株式の2029年度末残高ゼロを目標としていますが、政策株式売却加速分は特別配当という形で還元を行うともしています。当面は株主還元に手厚い状況が続くと予想されます。

3 三井化学(4183・東証プライム)

 総合化学大手の一角で、石油化学からヘルスケアや機能材料へと事業領域を拡充させています。

 現在はライフ&ヘルスケア(メガネレンズ材料や不織布)、モビリティ(エラストマー重合製品や複合材料製品などの自動車部品)、ICT(フォトマスク用防じんカバーなどの半導体材料や電池材料)、ベーシック&グリーン・マテリアルズ(エチレンなどの石化製品や基礎化学品)の四つの事業ポートフォリオで展開しています。

 メガネ材料、フォトマスク防じんカバー、食品包材用ウレタンバリアコートなどは世界トップシェアを誇る製品となっています。

 2025年3月期第1四半期営業利益は272億円で前年同期比95.9%増となっています。主要セグメントはそろって増益となりましたが、中でもベーシック&グリーン・マテリアルズが、値上げ効果や原材料価格上昇に伴う在庫評価益などで大幅に収益が改善しています。

 上半期営業利益は為替前提を円安方向に見直したものの、460億円で同47.2%増を据え置きし、モビリティやベーシック&グリーン・マテリアルズが固定費増などで第1四半期比悪化を見込んでいます。なお、現在、大阪エチレンプラントが不具合のために生産休止となっており、その悪影響は業績予想に反映し切れていないようです。

 年間配当金は前期比10円増の150円を計画しています。配当金はDOE(自己資本配当率)3.0%以上のほか、安定的かつ継続的な配当を目指すとしています。ここ10年間で減配は行っていません。また、総還元性向30%以上を目指し、機動的かつ柔軟な自己株式取得を実施するとしています。

 短期的には、市場想定を上振れた第1四半期業績にもかかわらず株価は下落していることで、反動高の余地が大きいといえます。中期的には、蘭ASMLなどと連携している次世代のCNT(カーボンナノチューブ)ペリクル早期事業化などが期待材料と捉えられます。

4 大和証券グループ本社(8601・東証プライム)

 国内第2位の証券会社である大和証券が中核となっています。証券・不動産アセットマネジメント企業、シンクタンク企業、大和ネクスト銀行なども傘下に抱えています。資産管理型ビジネス強化、残高ベースの収益拡大などに注力しています。アナリストのリサーチ力、コンサルティング力などに強みがあるとされ、国内ラップ口座契約残高も国内トップレベルととなっているようです。

 全国の金融機関との提携を推進していますが、2024年5月にはあおぞら銀行と資本業務提携を締結し、8月現在、23.95%の議決権比率を持つ筆頭株主となっています。

 2025年3月期第1四半期純利益は239億円で前年同期比1.2%増となっています。大和証券が中心となるウェルスマネジメント部門が増収増益となってけん引役になりました。一方、アセットマネジメント部門やグローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門は減益となっています。営業外収支の悪化も増益率低下に影響した格好です。

 ちなみに、前四半期比では株式市況活況の反動によって39.4%の減益となりました。2025年3月期通期業績予想は非公表ですが、市場コンセンサスは1,270億円程度とみられ、その水準に対する進捗率は20%弱の水準となっています。

 2024~2026年度の中期経営計画期間を対象に、大手金融機関では初めてとなる下限配当金を導入し、前期実績となる44円に設定しています。また、配当性向は半期ごとに50%以上としています。資産管理型ビジネスモデルへの移行や事業ポートフォリオの多様化でベース利益が積み上がっており、グループ業績の底堅さが進展したことを下限配当導入の背景としています。

 株式市場の先行き不透明感や企業収益のピークアウト懸念が強まる中では、減配リスクの乏しさは安心感につながる余地が大きいと考えられます。なお、内部留保を十分確保できた場合は、自己株式取得も含めてより積極的な利益還元を行う方針ともしています。

5 川崎汽船(9107・東証プライム)

 国内海運大手3社の一角です。2023年12月末時点の運航船腹数は439隻、ドライバルク船の173隻を筆頭に、自動車船、LNG(液化天然ガス)船などが隻数上位となっています。

 もともとはコンテナ船のウエートが相対的に高い状況でしたが、2018年に海運大手3社がおのおののコンテナ船事業と海外におけるコンテナターミナル事業をスピンオフし、それを統合した新会社「Ocean Network Express(ONE)」を設立しています。統合会社は持分法適用会社になっており、最近の収益急拡大のけん引役になっています。

 2025年3月期第1四半期経常利益は748億円で前年同期比58.6%増益となっています。ドライバルク船事業が、大型船、中小型船市況ともに輸送需要が堅調に推移して大幅増益となり、持分法投資損益として反映されるコンテナ船事業も、中東情勢に起因する喜望峰経由の迂回(うかい)ルート利用の⾧期化を背景とする船腹需給の引き締まりなどで短期運賃が上昇しているもようです。

 2025年3月期通期予想は2,200億円、前期比65.8%増で、第1四半期決算前に従来の1,350億円から上方修正しています。ドライバルク事業における底堅い市況推移、自動車船事業における自動車の生産・出荷台数堅調推移などが上振れの背景のようです。

 年間配当金は85円を計画し、株式分割を考慮した前期実績の83.33円から増配を見込んでいます。こちらは初期計画から変更されていません。会社側では2024~2026年度の中期計画期間中に還元総額3,330億円以上を実施するとしており、年間配当金については3年間85円を実施するようです。

 変動の大きいコンテナ船市況に業績が振り回されやすい状況下、減配リスクが乏しいことは買い安心感につながっていきそうです。また、機動的な株主還元として、3年間で1,500億円以上を想定しており、現在909億円を実施済みのため、目先的に500億円以上の自己株式取得が実施される可能性も高いと言えます。