中央銀行の購入動機は世界情勢の大きな潮流

 中央銀行はなぜ、金(ゴールド)を保有しているのでしょうか。以前の「中央銀行が金(ゴールド)に注目する理由」で述べたとおり、全体的には「長期的な価値保全/インフレヘッジ」「危機時のパフォーマンス」「効果的なポートフォリオの分散化」「歴史的地位」などが、主な理由です。

 また、いくつかの新興国の中央銀行においては「制裁への懸念」「政策ツール」「国際通貨システムの変化の予期」なども、金(ゴールド)を保有する動機になっています。

 筆者は以下の図の通り、2010年ごろ以降、スマートフォン(SNSでのコミュニケーションを含む)とESG(環境・社会・企業統治の三つを基にした投資選別)の考え方が世界的に普及したことが一因となり、西側と非西側の間の分断が深まったと考えています。

 2011年ごろに中東・北アフリカ地域の複数の国家で発生した武力衝突を伴った政権転覆「アラブの春」の発生と、2016年に英国で行われたEU(欧州連合)離脱を問う国民投票と米国で行われた大統領選挙で事前の予想を覆す結果が出たことの一因に、SNSの存在が挙げられています。

 スマートフォン・SNSが存在しなければ、こうした民主的とは言い難い結果は出ていなかったのではないか、ということです。

図:2010年ごろ以降の世界情勢と各種コモディティ(国際商品)価格上昇の背景

出所:筆者作成

 また、ESGについては、環境、社会、企業統治に前向きなことをしている企業に投資をし、そうでない企業から資金を引き揚げるなど、投資先を選別する際の「正義と悪の線引き」ともいえる考え方です。

 これにより、E(環境)に抵触する石油関連企業や産油国やS(社会)に抵触する専制的な体制を敷く国(ほとんどが非西側)を非難する声が大きくなりました。そしてその声が大きくなるにつれて、その対極にある西側の企業への投資が加速しました(米国株高の一因)。

 非難された側の非西側と非難した側の西側の間に分断が生まれたことは、自然なことでした。その後も、西側がESG推進を止めなかったため、分断が深まりました。SNSとESGが世界に深刻な影響をもたらした一因であることは、つながりたいという本能を持っている人類にとって、そしてESGを正義と疑わない西側にとって、不都合な真実といえるでしょう。

図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン

出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料を基に筆者作成

 中央銀行は、こうした世界分断のさなかにあって、先述の動機を基に2010年以降、全体として買い越しを続けています。世界分断も、それと相互作用の関係にある民主主義の行き詰まりも、世界分断と民主主義の行き詰まりが一因である戦争も、彼らにとって外貨準備高における金(ゴールド)の保有量を増やす強い動機になり得ます。

 では、世界分断をなくすことはできるのでしょうか。筆者はできないと考えています。西側はすでにESG投資と称して莫大(ばくだい)な資金を動かしてしまっていますし、何より自分の正義を否定することなどできないでしょう。また、つながりたいという根源的な欲求を満たすSNSを人類から取り上げることは不可能でしょう。

 このため、長期的に世界分断は解消できず、新興国を中心とした中央銀行の金(ゴールド)の買いが継続する可能性があります。このことは、長期視点で金(ゴールド)価格が高止まりすることを示唆しています。

尊厳と秩序の放棄が「見えないリスク」増幅

 ここからは超長期視点のテーマ「見えないリスク」について書きます。2010年ごろから世界的な普及が始まったスマートフォン(SNS含む)が、世界に甚大な負の影響をもたらしている可能性があります。

図:「スマホ(SNS含む)」の世界的普及がもたらした負の影響

出所:筆者作成

 スマートフォン(SNS含む)が、いつでも どこでも 誰でも 簡単に、外的刺激(映像・音声)と内的刺激(興奮・悦楽)を同時に享受できる環境を実現しました。これはわれわれ人類が「わがまま実現機」を手に入れたこととほとんど同じ意味です。

 これによりスマートフォンが存在する社会(世界のほとんど)では、共通認識が表層的・短絡的になり、かつ多くの人々がわがままを通したりする(喜怒哀楽を常時開放する)ことが容認されやすくなりました。

 わがままが横行する社会では、共通認識が表層的・短絡的になりやすくなります。我慢する、味わう、などの時間と忍耐を伴う深い思考が欠落するためです。

 例えば、教育の現場で時間をかけて行う人格形成よりも目先の得点アップや失敗しないことが優先されたり、飲食店で濃い味付けの料理でお客に短時間で分かりやすく満足感を与えることが優先されたりする場合があります。

 我慢したり、味わったりすることで生じる思考・感情(「尊厳」に近い)を放棄しているに等しいといえます。すぐに満足する結果を得たい・与えたい、というわがままがそこに存在しています。

 また、「期待」が「裏切られたという感覚」に変わった瞬間的に膨張する攻撃的な感情が、刃物のように鋭い言葉をつくることがあります。こうした言葉がSNSというわがままが容認される環境で束になり、対象者の心を深く傷つけます。たくさんの心ない投稿によって、オリンピック選手などのアスリートや審判の心が傷ついていることは、報じられているとおりです。

 誤解を恐れず言葉にすれば、投稿者の「期待」も「裏切られたという感覚」も、ある意味、投稿者のわがままだといえます。こうしたひぼう中傷を言い換えれば、勝手に期待し、勝手に裏切られた感覚になり、勝手に攻撃的な感情を膨らませ、勝手に攻撃する、そして束になった攻撃を、アスリートや審判が個人で受け止めている、となるでしょう。

 わがまま(喜怒哀楽の常時開放)を閉じ込めることは、秩序を取り戻すことに似ています。ですが、人にとって、感情を開放させることよりも、閉じ込めることの方が難易度が高いことを考えれば、秩序を取り戻すことには大きな困難を伴います。

 このように、スマートフォン(SNS含む)を起点に考えれば、すでに人類はこれらの機器・技術の登場によって、解消できない甚大な「見えないリスク」にさらされているといえます。

 人は無自覚に、長い歴史の中で獲得してきた尊厳と秩序を放棄しつつあると考えられます(生き物として生きることに回帰しているようでもある)。この点は、超長期視点で金(ゴールド)価格を支える要因になると、筆者は考えています。

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