中東情勢悪化は短期的・直接的な要因

 足元の中東情勢の緊迫化が、金(ゴールド)や原油の価格が上昇している主因だと言われています。1970年代後半に起きた中東情勢の緊迫化を連想した投資家が、短期的な価格上昇を見越して買っていると考えられます。

 1970年代後半といえば、第四次中東戦争、イラン革命、在イラン米国大使館人質事件などが起きた期間です。あの時、有事ムードの高まりで金(ゴールド)が、供給懸念で原油が、それぞれ短期的な急騰を演じました。

図:イランとイスラエル、イランが支援するイスラム武装組織「抵抗の枢軸」の直近の動き

出所:各種資料およびmap chartを用いて筆者作成 イラストはPIXTA

 足元、上図の通り中東のイスラエルと、イランおよびイランが支援する「抵抗の枢軸(すうじく)」と呼ばれる複数のイスラム武装組織との間で武力衝突が起きています。

「抵抗の枢軸」とは、ガザ地区を実効支配し、昨年10月にイスラエルを奇襲した「ハマス」、イスラエルの北部に隣接するレバノンに拠点を置く「ヒズボラ」、アラビア半島南部に位置するイエメンに拠点を置く「フーシ派」、シリアやイラクで活動する民兵組織、イラン革命防衛隊などです。

 昨年10月の奇襲以降、ハマスはイスラエルと交戦中です。以下の資料の通り、3月25日に国連安全保障理事会で両者の停戦決議が採択されたものの、イスラエルは、採択の際に棄権をして同国を擁護する姿勢を取らなかった米国に対して「明らかな後退」と反発するなど、戦闘を停止するそぶりは見られません。

 そればかりか、イスラエルは停戦決議採択後の同29日に北東部で隣接するシリアを空爆して「ヒズボラ」のメンバーを殺害したり、4月1日には在シリアイラン大使館をミサイルで攻撃して「イラン革命防衛隊」の司令官らを殺害したりするなど、次々にイランが支援する「抵抗の枢軸」を攻撃しました。

図:2024年年初からのイスラエルをめぐる動き

出所:各種資料より筆者作成

 そうしたイスラエルの行動に業を煮やしたイランはついに、4月13日、敵対し始めて45年目で初めて、イスラエルに本土攻撃を仕掛けました。前日にバイデン米大統領が「やめろ」「成功しないだろう」と自制を求めましたが、イランは聞き入れませんでした。

 同日、フーシ派もイスラエルにドローンを発射したり、ヒズボラも戦闘態勢を強めたり、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡(中東産原油輸送の大動脈)付近でイスラエルに関わる船舶を拿捕(だほ)したりしました。イランによる本土攻撃、「抵抗の枢軸」による同時多発的な攻撃が、イスラエルを襲っていると言えます。

 金(ゴールド)と原油の価格が短期的な暴騰状態にあるのは、中東情勢が大規模な報復合戦に移行し、不安と供給懸念が拡大しているためだと言えます。