米金融政策の軟化

BTC/JPYと米金融政策

出典:Trading Viewより楽天ウォレット作成

 米ドルからの逃避需要という意味では、FRBの金融政策が重要となる。前回のブームでは、2020年のコロナショックに対する無制限緩和に不安を覚えた米投資家がBTCにヘッジ買いを入れ、2021年11月の金融緩和の縮小、すなわちテーパリング開始を機にピークアウトした。

 そして、2022年11月のボトムも利上げ幅の75bpから50bpへの縮小をきっかけに下げ止まっている。その後、利上げ幅が50~25bpに縮小され、さらに利上げペースが、毎会合から2回に1回ペースに鈍化、BTCはボトムからほぼ2倍の水準まで上昇した。

米実質金利(FF金利-CPI)

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 そこで次は利上げの打ち止め時期が重要となるのだが、現段階での市場の織り込みはほぼ半々だ。すなわち、2回に1回ペースであれば、次回利上げは11月になる。しかし、金融政策が転換期を迎え、FRBは毎会合の利上げの有無をデータ次第としている。

 個人的には、今年4月ごろに政策金利がCPI(消費者物価指数)を上抜け、すなわち実質金利がプラスに転じ、そこから引き締め効果が効き始め、明らかに景気後退を示す指標が増えてきたと考えており、すでに利上げは7月で打ち止めになったと見ている。

 ただ、FRBがデータ次第と指摘するように11月の利上げの有無は10月発表の雇用統計とCPIを見てみないと分からない。従って、9月中に分かることは9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げをスキップするか否かで、それに関しては見送りがコンセンサスだ。

 20日のFOMCまでにCPIの発表があるが、これで多少弱い数字が出ても、その先のことはまだ分からないので、利上げ打ち止めでBTCが大きく買われる可能性は低いと考える。

 逆に、これがサプライズで上昇し、9月も利上げすることとなった場合は、BTCはもう一段の下げが予想される。

現物ETF承認期待

 そしてBTCの現物ETFの承認可否が8月の相場を大きく動かした。

 SECは2021年10月にCME(シカゴ先物取引所)の先物ベースのETFを承認したが、現物ETFの申請は20件以上あったがいずれも認めていない。ちなみにETFが承認されたらBTCが上昇する理由については7月見通しをご参照いただきたい。

 その理由としてSECは現物市場における価格操作の恐れを挙げている。6月にブラックロックがETFを申請、今までSECに取り下げされていた他社も再申請に踏み切った。ブラックロックはコインベースと監視協定を結び、価格操作を取り締まることとしており、他社もそれに続いた。

 ちなみに、元々のSECのロジックで言えば、この仕組みでSECの懸念をクリアできるかは微妙だ。

 CFTC(米商品先物取引委員会)の管理下にあるCMEの先物市場では市場操作が禁じられているが、BTCの現物市場で風説の流布や見せ玉、なれ合い取引といった典型的な不正取引を取り締まる公的なルールが整備されているのは小職が知る限り日本だけだ。

 コインベースが監視すると言ってもあくまで民間企業の努力というだけで、公権力による規制がかかっている訳ではない点で不十分という指摘は可能だ。

 ところが、8月29日にグレースケールがSECに勝訴したとのニュースが飛び込んできた。同社は私募のBTCファンドを組成してその株式を店頭市場で売買するGBTCという商品を販売しているが、これをETFに切り上げる申請をした。

 運営側としてはGBTCの価格不振を脱し、人気を取り戻す切り札として、投資家からすれば価格上昇に加え手数料が2%から1%に引き下げられるとして双方から承認が期待されたが、SECはこれを拒否、同社がこの判断を不服として裁判所に訴えていた。裁判所は同社の訴えを認め、SECの拒否を取り消し、SECに再審査を命じた。

 裁判所は判決で(先物と現物価格はほとんど同じなのに)先物は認めて現物を認めないSECの判断は「恣意(しい)的できまぐれ」と切って捨てた。この結果、SECは現物ETFを認めない根拠を失った。

 さらに、ゲンスラーSEC委員長の前任で、価格操作を理由にETF申請を拒否し続けていたクレイトン前委員長まで、先物と現物とを永遠に別扱いすることはできないとまで言い始めた。

 昨今、ゲンスラー委員長は政治色を強め、それ故にかたくなで強権的な姿勢を強めていると先月の本レポートで指摘した。その委員長といえども、ウォール街、投資家、裁判所、前任者にそっぽを向かれ、四面楚歌の状態に陥っては万事休すではないだろうか。

 判決の直後に第一回回答期限が到来したブラックロック分については早ければ第2回の回答期限である10月半ば、最終回答期限となる来年3月半ばには承認される可能性が高まった。