代替先でも供給増加は望みにくい
問題は、さほど依存せずに、ロシアとウクライナを分散先の一つとして輸入していた国々です。ロシアが「蛇口」を閉じた場合、ただ取り上げられるだけ、という格好になりかねません。ナイジェリア、インドネシア、バングラデシュがそれにあたります。
これらの国は、ロシアとウクライナに20~30%程度、依存していますが、エジプトやトルコなどと違い、輸入先を分散しています。分散先は以下のとおり、米国やカナダ、オーストラリアといった西側の主要生産国、インドやアルゼンチンといったBRICSプラスの主要生産国です。
図:ナイジェリア、インドネシア、バングラデシュの小麦輸入先シェア(2021年)
ナイジェリアなど三カ国は、調達先をある程度分散していたため、一部(この場合はロシアとウクライナ)からの輸入が減少した場合、ほかの分散先の比率を高くして安定供給を図ることを検討すると、考えられます。そして以下は、ナイジェリアなど三カ国の代替調達先となり得る、米国、カナダ、オーストラリア、アルゼンチン、インドの小麦の収穫面積の推移です。
図:主要小麦輸出国の収穫面積 単位:100万ヘクタール
この半世紀以上、カナダ、オーストラリア、アルゼンチンの小麦の収穫面積は、ほぼ横ばいです。米国は1980年代前後のピーク時から半減、インドのみが増加しています。
インドは自国の需要急増を補うことを主目的として生産をしているため、昨年(2022年)のように自国の安全保障のため、という理由で輸出を停止することがあります。このため同国は、収穫面積が増えてはいるものの、必ずしも、ナイジェリアなど三カ国の代替調達先になるわけではない点に注意が必要です。
ロシアが「蛇口」を閉じ、道義的にロシアに見返りを求めることができず、かつ代替先から十分な供給を得ることができない場合、当該国で小麦の需給がひっ迫する恐れがあります。特に、インドネシアが西側主要国から、バングラデシュがインドから、十分な供給を受けられない場合があると、筆者はみています。