具体的なペアトレード例

 では昨年の10月から約1カ月、当社の米株信用(一般信用取引のみで返済期限は無期限)を利用して米国市場で同業種のA社とB社でペアトレードをしたと仮定し、どのような結果になったか見てみましょう。 

 ここでは最初の図のように、A社を米株信用の買い銘柄、B社を米株信用の売り建て(空売り)銘柄とします。1ドル130円としたときの約100万円相当、7,700ドルを保証金の予算として、A社とB社を同日約定で建てて1カ月間保有する場合を考えます。

※この方法だと、信用取引に伴う買い方金利と売り方の貸株料が両方発生します。買いを現物にすれば買い方金利はかかりませんが、資金効率が下がること、また資金効率を上げるために現物を代用有価証券とする方法だと、あらかじめ現物を保有していない場合、現物を約定させ国内約定日以降に代用有価証券にする際に時間差が生じ、その間に値動きがずれる可能性もあることにご注意ください。

 なお手数料など当社の米株信用の取引ルールは、簡単にまとめると以下の通りです。

当社の米株信用の取引ルール(一部抜粋)
信用種類 一般信用(無期限)
決済方法 外貨決済
最低委託保証金 30万円相当の当社が指定する額
委託保証金率 50%
最低委託保証金率 30%
保証金現金 米ドル、日本円(掛目95%×為替評価)
代用有価証券 米ドル(掛目70%)
手数料(税込) 約定代金の0.33%(3.33ドル以下は無料/上限は16.50ドル)、新規売建および売返済時には別途Sec Fee(米国証券取引委員会に支払われる現地取引費用)が100万ドルあたり22.9ドル(2023年2月時点)発生。
買い方金利 基準金利(年率)※+3.5%
貸株料 2.0%(年率)
※:2023年2月17日時点の買い方金利は4.5%(年率)。基準金利が変更される場合は、当社ウェブサイトにて変更後の金利の適用開始日を告知の上、変更後の金利を適用。

 以下、具体的に手順を追っていきましょう。

A.  A社の株価は2022年9月30日の終値で138.20ドル、B社の株価は同日に95.65ドルだったとします。まずこれらを7,700ドルの保証金現金のもとで、翌営業日の10月3日の寄付にて同じぐらいの金額で新規建てさせます。

 保証金率は余裕をもって70%程度にするなら、7,700ドルで新規建てができるのは、7,700 ÷ 70% ≒ 1万1,000ドルほどです。そのため2銘柄をそれぞれ5,500ドルで約定させたいということになります。

 A社:5,500(予算)÷ 138.20(前日終値)≒ 39株
 B社:5,500(予算)÷ 95.65(前日終値)≒ 57株

と概算できるので、10月3日の寄前にそれぞれ39株と57株で発注しておきます。成行でも指値でもどちらでも大丈夫ですが、同時に約定できるように実勢からかけ離れた指値にはしないように気を付けましょう。寄付での思わぬ高値づかみを避けたい場合は、取引開始後に株価を確認してから、成行注文を同時に出します。

 ここではいずれも、10月3日の始値である138.21ドル/96.76ドルで全株約定したとします(時点➀)。その瞬間の建玉状況は以下の通りです。これをその後1カ月間保有します。

B. 1カ月間、この業種全般は大きく株価を下げ、A社もB社も、この期間は下落基調でした。ですがその騰落率に差がありました。

 1カ月後(11月3日)の終値の約定単価に対する騰落率は以下の通りです。

 A社:138.88ドル(0.48%
 B社:83.43ドル(▲13.78%

 このように、B社が大崩れしていたのに対し、A社は市場の逆風の中でも持ちこたえていました。ここがペアトレードの利益の源泉です。この終値で両銘柄を返済した場合(時点②)、直前の保有状況は下表の通りでした。A社単体では手数料・金利負けをする状況だったものの、A社とB社の値動きの差を源泉として、このときは利益を得られました。

※1: 新規建て手数料16.50ドルと買い方金利22.59ドルを込み。買い方金利は建国内受渡日(10/6)からこの時点で決済した場合の返済国内受渡日(11/8)までの日数(両端入れ)が反映され、34日 × 建玉金額(5,390.19ドル)× 買い方金利(年率4.5%)÷ 365で計算。
※2:新規建て手数料16.63ドルと貸株料10.27ドルを込み。手数料は16.50ドル + Sec Feeの0.13ドル。貸株料は建国内受渡日(10/6)からこの時点で決済した場合の返済国内受渡日(11/8)までの日数(両端入れ)が反映され、34日 × 建玉金額(5,515.32ドル)× 貸株料(年率2.0%)÷ 365で計算。

 この状態で決済すると、返済手数料として16.50ドル×2、A社の返済売りに対するSec Feeの0.13ドル、しめて33.13ドルを引いて、686.82ドルが実現損益となります。1ドル130円として日本円で8万9,287円です(ここから譲渡益税の約2割を引いて、手取りの利益は1カ月で7万1,000円ほどとなります)。

 もちろん、ある銘柄が下落することから利益を得ようと考えるだけなら、普通の空売りで十分です。しかし、当然ながら業績などの企業固有の状況に加えて、市場全体の値動きも多大な影響を与えるので思った通りに株価が動くことはなかなかありません。

 一方、ペアトレードをする利点は、取引銘柄の業種全体が下落した場合に限らず、上昇した場合でも利益を狙える点です。本来なら「上がるか下がるか」で損益が決まるところ、相対的な銘柄分析に基づき、相場の方向性のリスクを避けて「銘柄ペア」の優劣で利益を狙う。ここがペアトレードの最大の特徴です。