「グローバル化」の長期視点の変化に注目

 ここまで、V-Dem研究所のデータを参照しながら、世界は今、「グローバル化混沌」の状態にあると、述べました。ここからは「グローバル化」の変遷の詳細を確認します。

 以下の図は、筆者が考える、1990年以降のグローバル化の変遷です。先述の通り、冷戦終結後、世界は急速にグローバル化しましたが、2010年の頃に行き詰まり、2020年以降、混沌としています。

 行き詰まりの一因に挙げられるのが、西側諸国が提唱しはじめた「環境・人権」問題解決に向けた動きです。

 これらのテーマは、人類共通の目的と称し、経済成長を誘引することを目的にして提唱されたわけですが、「環境」を提唱すればするほど「産油国・産ガス国」からの反発が、「人権」を提唱すればするほど「独裁国家」からの反発が強まりました。

 また、これらの新しいテーマが「西側のビジネスチャンス」という意味を含んでいたことが、非西側諸国(産油国・産ガス国、独裁国家)の不満を大きくした可能性があります。

図:1990年以降のグローバル化の変遷(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 そして、2020年に新型コロナがパンデミック化し、2022年にウクライナ危機が勃発しました。こうした混乱に乗じて影響力を高めようと画策する国が現れたり、混乱がきっかけで生じた資源価格の高騰を謳歌(おうか)する国々が現れたりしました。

 こうした過程を経て、特にウクライナ危機勃発後は、旧ソ連諸国(ベラルーシ、カザフスタンなど)、ロシアとアジアで隣接する国々(中国・北朝鮮)、産油国(サウジ、イランなど)、南米・アフリカの資源国(ボリビア、南アフリカなど)の、西側諸国への反発心が集合しはじめたと考えられます。

 このことを裏付けるように、以前の「逆さから見る民主主義 コモディティ価格はどう動く!?」で述べたとおり、ロシアを否定するはずの国際連合決議で、世界の半分強の国々が、反対・未投票・棄権などの、ロシアを積極的に否定しない姿勢を示しました。

「グローバル化」の変遷を振り返ると、グローバル化「開始」前後(1990年前後)の市場は「単純」「自分」「現実」「経済」などのキーワードで分析が可能でした。しかし、グローバル化が「行き詰まる」と、「複雑」「他人」「偶像」「社会」などのキーワードを用いないと分析ができなくなりました。2020年以降の「混沌」期は、「行き詰まり」の度が増したイメージです。