今は、株・有事よりも「ドル」の動向が重要

 しばしば、「株価が上昇している時、金(ゴールド)価格は下落する傾向がある」と耳にしますが、足元、そのような値動きにはなっていません。また、「有事(戦争や大規模な何らかの危機)が起きた時、金(ゴールド)価格は上昇する傾向がある」とも言われますが、足元、やはりそのようにはなっていません。

 現代の金(ゴールド)相場が、以前のようなシンプルな作りでないことは、ウクライナ危機勃発後に下落したことが証明してくれています。「有事の強弱」だけ、「株との比較」だけで説明できるのであれば、ウクライナ危機勃発後、金(ゴールド)相場は大暴騰しているはずです。(有事と株安の相乗効果)

 以前の「侵攻半年、金(ゴールド)相場高止まりは長期化へ」で述べたとおり、短中期的な金(ゴールド)価格の動向を考える上で必要なことは、「有事ムード」、「代替資産(株の代わり)」、「代替通貨(ドルの代わり)」の「三つの側面から同時に観察する」ことです。ゆめゆめ、わかりやすいから、直感で、などの理由でどれか一つだけを切り取ってはいけません。

図:ドル指数、ドル建て金(ゴールド)、CRB指数の推移(2022年6月1日を100)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 上のグラフのとおり、今年6月から10月まで、金(ゴールド)相場が下落したのは、「有事ムード」と「代替資産」起因の上昇圧力を、「代替通貨」起因の下落圧力が上回ったためです。上昇圧力は確かに存在した、しかしそれを上回る下落圧力が存在した、だから(有事でも株安でも)金(ゴールド)相場が下落した、という説明です。

 11月に入り、金(ゴールド)相場が急反発しています。株高でも金(ゴールド)相場が急反発しているのは、株高由来の下落圧力を上回る上昇圧力が存在しているためです。上昇圧力は主に「ドル安(代替通貨)」由来です。