市場は「ドル安」の兆しを創造した

 11月に入り、株高の中、金(ゴールド)相場が反発していることを確認した上で、その背景に「ドル安」が存在すると書きました。

「ドル安」は、ドル建てのコモディティ(国際商品)の価格上昇要因の一つです。ドル安時、ドル建ての商品が、他の通貨建ての同一商品と比べて、割安に映るためです。

 先ほどのグラフ「ドル指数、ドル建て金(ゴールド)、CRB指数の推移」で、11月に入り、金(ゴールドと同様)コモディティ市場の総合的な値動きを示す指数の一つ、CRB指数も反発していることを確認することができます。

 また、金(ゴールド)は、ドルと同様、「世界のお金」という側面を持っています。貿易の決済時に最も多く使われる通貨「米ドル」と、世界各地でお金として用いられてきた歴史を持つ「金(ゴールド)」。片方に注目が集まる時、相対的にもう片方の注目度が下がることがあります。

「ドル安」は、「代替通貨」に関わる二つの経路(他通貨建て金(ゴールド)との比較、米ドルとの比較)で、金(ゴールド)相場に上昇圧力をかける要因であると、言えます(逆にドル高時は、二つの経路で下落圧力がかかる)。

 こうした背景があるため、足元、株高でも金(ゴールド)相場は反発しているのです。(株高(代替資産由来の下落圧力)よりも、ドル安(代替通貨由来の上昇圧力)の方が、影響が大きい。ウクライナ危機由来の有事ムードも一定の上昇圧力をかけている)

 その「ドル安」はどこからきたのか、引締め一辺倒の米国の金融政策に対抗するように、「市場が緩む兆しを創造」したことが大きいと、考えられます。

 以下のグラフは、先物市場をもとに作られたFF金利(Federal Funds Rate米国の代表的な短期金利。米国の政策金利)見通しです。2022年12月から2024年1月までの、合計10回のFOMC(米連邦公開市場委員会)時点での金利見通しの推移を示しています。そしてその上限が、「ターミナルレート(金利上昇時の最高到達地点)」の見通しです。

図:先物市場のFF金利見通し(市場予想平均)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 利上げは来年5月まで続くものの、2022年6月ごろから行われてきた「三倍速(通常の0.25%の3倍にあたる0.75%)」と揶揄(やゆ)される急速な利上げが起きないことや、来年半ばにターミナルレートが下がること、来年後半に利下げが始まることなどが、「見通されて」います。

 米CPI(消費者物価指数)が、事前予想よりも弱かったことを受け、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ方針が緩むとの見方が強まり、「見通しの緩和」が、さらに、進みました(CPI発表前の11月9日よりも発表後の10日のほうが緩和的)。先日のCPIを機に楽観的見通しが加速したと言えます。

「米国の金融政策見通しが緩和方向に加速していること」が、ドルの先安観を強めているとみられます。そしてそれを受け、金(ゴールド)相場の反発傾向が鮮明になっています(反撃の狼煙上がる)。今後もこのような「見通しの緩和」が進めば、ドルのさらなる下落、同時に金(ゴールド)相場のさらなる反発が起きる可能性があります。