拡大する米国の欧州向けエネルギー輸出

 欧州で発生しているエネルギー危機が、米国の生産量増加の一因だと、考えられます。ウクライナ危機勃発後から、「買わない西側・出さないロシア」という構図が鮮明になり、欧州ではエネルギーの供給減少懸念が強まっています。

 先ほど述べた、米国にとっての「旺盛な需要」とは、この欧州のことです。以下のグラフのとおり、特に、同じ化石燃料の中でも燃焼時の温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出量が少ないとされる「天然ガス」の輸出量が大きく増加しています。

図:米国のLNGと原油の輸出量(EU、アジア向け)

出所:U.S. Census Bureauのデータをもとに筆者作成

 また、以下は輸出単価(輸出額÷輸出量)です。

図:米国のLNGと原油の輸出単価(EU、アジア向け)

出所:U.S. Census Bureauのデータをもとに筆者作成

 この場合の天然ガスは「LNG(液化天然ガス Liquefied Natural Gas)です。天然ガスをマイナス162℃まで冷却して、液化したものです。液化することで体積は約600分の1になり、タンカーで輸送できるようになります。

 天然ガス(LNG)の輸出量については、EU向けがアジア向けを上回っています。原油の輸出量については、長期視点でEU向けが増加傾向にあります。輸出額は、欧州で供給懸念が強まったウクライナ危機勃発以降、天然ガス(LNG)、原油ともに、EU向けがアジア向けよりも高い状態にあることがわかります。

 今、米国の石油業界にとって、「EU」という市場は魅力的に映っていることでしょう。ビジネス(お金)の面だけではなく、「脱ロシア(ロシア制裁+脱炭素)」をがんばる「EUを支援する」という意味が込められることも、輸出増加に拍車がかかっている一因であると、筆者は考えます。