増産可!?「基準」「上限」「実際」を区別

 先述のとおり、「OPEC減産」に関わる報道に、筆者はやや引っ掛かりを感じています。「減産基準量(Reference Production)」「生産量の上限(超えないように求められている生産量Required Production 超えたら減産非順守)」「実際の生産量(Production)」が、明確に区別されないまま「減産」が独り歩きしていると感じるためです。

 以下のグラフは、コロナショックなどの混乱による一時中断(2020年4月)後に再開した減産における、各数値の推移を示しています。先述の通り、「減産基準量」と「生産量の上限」は、OPECプラスが会合で決めていますが、「減産基準量」が変わることはあまりありません。(2020年5月以降は2022年5月と10月の2度のみ変更)

「生産量の上限」は、毎月の会合で翌月分を決定しています(来年より会合は6月と12月の年2回になる。臨時総会はある。今回の会合で決定)。この「生産量の上限」を引き下げることが、「報道上の減産」です。

図:減産に参加するOPECプラス20カ国の原油生産量など 単位:百万バレル/日量

出所:OPECの資料およびブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 報道されている「200万バレルの減産合意」は、「減産基準量」から「生産量の上限」を200万バレル引き下げることを合意したということを意味しています。ここに「実際の生産量」の話はありません。

 つまり、「報道上の減産合意は、実際の生産量が減ることを約束するものではない」のです。おそらく多くの市場関係者は、「減産=生産量減少」と思っているのではないでしょうか。

 グラフ内に書いた赤い丸「増産余地」は、およそ日量140万バレル分(9月比)です(関連事項を後述)。つまり、OPECプラスは、表向きは「大規模な減産をします」としつつ、実は増産が可能な環境にあるのです。産油国にとって増産は、収益拡大に結び付きます。(収益=単価×数量。増産は数量増加に寄与する)

 OPECプラス内の非OPEC側には、ロシアとロシアに比較的関わりが深いカザフスタンなどがいます。今回の会合を機に、彼らの収益も増える可能性がある点に、留意が必要です。