リーマンショック時の経済環境との比較、二つの共通点と三つの相違点

 今、起こっている危機と、リーマンショックの共通点、相違点について、私の考えをお伝えします。

【共通点1】世界的にインフレが深刻化している

 リーマンショック直前、今と同じように原油などの資源価格が一斉に上昇していました。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が世界経済の成長をけん引しており、需要の増加に供給が追い付かず、世界的な資源価格の上昇を招いていました。
 リーマンショック前、新興国のインフレ率はのきなみ10%を超え、ハイパーインフレの不安が語られていました。今と似ています。

【共通点2】世界景気は減速しても、巡航速度の拡大が続くと楽観論が語られている

 リーマンショック(2008年9月)の予兆は、2007年からありました。サブプライムローン危機は既に2007年から起こり始めていて、2008年に入るとその兆候は強まっていました。それでも「たとえ米景気が失速しても、BRICsの高成長が続くので、世界景気は好調を続ける」と楽観論が語られていました。
 今も、そうです。米景気悪化の不安に加え、中国景気悪化、欧州ロシア景気の悪化などが不安視されています。それでも、米景気が好調で日本の内需もこれから回復が見込まれる期待がでているので、日本および世界の景気は減速しても景気後退までには至らない、と楽観論が広がっています(その楽観論が私のメイン・シナリオです)。

【相違点1】世界的な金融危機は(少なくとも現時点で)起こっていない

 リーマンショックは、一義的には欧米を中心とした金融危機でした。それにインフレ高進による世界的な需要減少が重なりました。今回の危機で、インフレや世界景気の減速に対する不安は高まっていますが、欧米で金融危機が起こる兆しはありません。新興国の一部に金融危機の兆しがありますが、欧米の金融機関を巻き込む世界危機が起こる可能性は、現時点では低いと考えられます。

【相違点2】金利水準は当時より低い

 リーマンショック前、米長期(10年)金利は5%を超えていました。利上げが続き、FF金利(短期金利)が長期金利を超える「長短金利逆転」も起こっていました。
 それと比較すると、現在の米長期金利は3.5%です。まだ量的引き締めも本格化していません。急激に金融が引き締められているとはいえ、今はまだ、当時と比べるとはるかに金融緩和的な状況です。

【相違点3】リーマンショック時はウクライナ危機に相当する地政学リスクは無かった

 リーマンショック時、地政学リスクは今ほど深刻ではありませんでした。ウクライナ危機によるロシア経済の分断や、インフレの加速はありませんでした。
 今起こっている危機の先行きを考える上で、ウクライナ危機の先行きが大きな影響を及ぼします。これからウクライナ危機がさらに深刻化するかあるいは緩和に向かうか、地政学リスクの行方が、世界景気およびインフレに重大な影響を及ぼすでしょう。リーマンショック時には、そのような地政学リスクはありませんでした。そこが、当時と今の大きな違いです。