米国の原油生産量は思ったほど増えていない

 OPECプラスが大幅な増産をしてくれていない状況の中、世界No.1の原油生産国である米国はどのような状況なのでしょうか。

図:米国の原油生産量と米シェール主要地区の仕上げ済井戸数の推移

出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 上のグラフのとおり、米国の原油生産量(灰色の点線)は、コロナショック後、回復傾向にあるものの、ピーク時に届いていません。現在、原油相場は生産量がピークだった時(2019年11月)の1.5倍程度ですが、原油生産量は9割程度です。以前、「原油相場が上昇すれば、米シェール(米国全体の約7割)の生産量が増える」と、いわれていましたが、現在はその傾向は強くありません。

 米シェール主要地区の開発指標の一つである「仕上げ済井戸数(グラフのオレンジの線)」の増加が鈍いことが、直接的な、米国の原油生産量が思ったように増えない要因であると考えられます。

 仕上げとは、リグ(井戸を掘る機械。原油を掘る機械ではない)を使って掘削した井戸に、水と砂と少量の化学物質を高圧で注入して末端部分を破砕させる、原油を生産するために必要な最終的な作業のことです。

 この作業がどれだけ行われているかが、原油生産量がどれだけ増減するかに関わります(「稼働リグ数」は間接指標)。そして、仕上げ済井戸数の推移は、米国の政権に照らすと説明がつきやすくなります。

 石油の生産と消費を推奨したドナルド・トランプ前政権と、化石燃料の消費を否定するバイデン政権。前政権時は、現政権時に比べて原油価格も安くても、仕上げ済井戸数は多く、原油生産量が多い状態でした。両政権のエネルギー政策が、原油生産量の動向に影響を与えていると言えます。

 現政権は、ある意味「自国の原油生産量を急増させることができない政権」、同時に「原油相場を下げる策(インフレ沈静化策)を外部に求めている政権」と言えるでしょう。