需給バランスは相場動向を示唆していない?

 では、世界の石油市場の需給バランスは崩れているのでしょうか。原油相場の下落は、需給の緩みによるものなのか、という問いです。

図:世界全体の石油の需給バランス 単位:百万バレル/日量

出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 EIAのデータによれば、上のグラフのとおり、今年3月から6月まで、小幅な供給超過でした。ウクライナ危機起因の世界的な供給懸念が漂う環境下で、供給超過だったわけです。

 EIAは、夏から秋にかけて供給超過がやや拡大するものの、12月には需要期到来のため需要超過に転じることを見込んでいます。この「やや拡大」の「やや」は、新型コロナがパンデミック化した時のような大規模なものではない、という意味です。

 原油相場が複数回120ドルを上回ったウクライナ危機下で供給超過だったこと、見通されている供給超過の規模も「やや」の範囲であることを考えれば、需給バランスが、足元の下落を説明しているとは言い難く、今後も、供給超過であったとしても原油相場が上昇する可能性があると感じます。

 現時点では、世界全体の動向を網羅する需給バランスを、足元や今後の原油相場の動向を考える材料にするのは、適切ではないのかもしれません。ウクライナ危機勃発後の原油市場は、全体像ではなく、個別の材料を重視している可能性があります。